貴腐

winemag.co.za

これは灰色カビ病と呼ばれ黒葡萄では色素を破壊し、ワインに着色不良や不快臭を生むが、一方皮の薄い健全な完熟白葡萄に付くと、酸を消費しグリセリンを生成し、水分を蒸発させる事でエキス分のみを残す。これを貴腐と言い、極上の甘口ワインの原料となる。

www.winemag.com 水分を失ったレーズン、と言うか黴が生えたミイラ状態ですネ

葡萄を貴腐(Noble rot)状態にするには、非常に特殊な環境条件、即ち川に近く、湿って霧がかった朝と、それに続く晴れて乾燥した午後が必要となる。午前中の湿度の高い環境により黴の一種であるボトリティス・シネレア菌が発生し、果皮に小さな穴を開ける。そして午後の温かい環境が果実から水分を蒸発させる事で、酸度と糖度および風味が凝縮される。(オーストリアのノイジードラーゼーはほぼ毎年貴腐の環境が整うため比較的安価です)

例えば、南フランスでは1株の樹から3~5本のボトルを作るのは難しくなく、メドックの一流シャトーでは普通は1株から半~1瓶しか作らない(樹を剪定し〈葉が多いと果実が少なくなる〉、房を限定し〈僅かな未熟葡萄の混入も香味に影響する〉、少量の果実にその樹が持つ全エネルギーとエッセンスを注ぎ込む為)。一方ソーテルヌの最高峰(価格も質も畑の位置も)シャトー・ディケムは1株からグラス1杯しか作らない(普通は1瓶)。それは貴腐菌により水分の減った実を更に選果する為である(1L果汁は1,5kgの果房から。赤ワインなら1房からグラス半分の量。要するにアイスワインも同様だが、1房からスプーン1杯しか取れないという事で、貴腐ワインには通常の約8倍の葡萄が必要という)。

世界三大貴腐ワインはフランス・ボルドー地方のソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ(TBA)、ハンガリーのトカイ。これらの特徴は次の通り。(貴腐ワイン自体はオイリーな触感、蜂蜜、杏子、オレンジマーマレード、レーズン、シトラスゼスト、生姜、カモミール、揮発酸による除光液やセメダイン様のヨード香、またボトリティス由来のフィニッシュの苦味)

・ソーテルヌ: による量感、アルコール高め

・TBA:酸による繊細さ、アルコール低め、リースリング的特徴

・トカイ・アスー・エッセンシア:最低五年の長期樽熟によるシナモンや樹の香り、紹興酒的酸化熟成香、暗めの色調(深い黄金)

甘口というと日本ではエントリーレベルとして思われがちですが(個人的にマスカットから造るイタリアのアスティが好きで、それを堂々と公表して良く小学生を見るような目で見られます(#^ω^)、これら極甘口は非常に素晴らしく、最上のものは余韻も長く、まるで永遠に続くかの如きです。このせせこましい時代、レストランでは食後のワインを嗜む人が減少して久しいと聞きますが、デザートの一杯のソーテルヌによって盛り上がりは頂点に達するのです。大口の得意先であったロシアや東欧の貴族がいなくなった事に加え、世界のヘルシー・ライトフードの流れを受けて甘口ワインの消費が激減する中、生き延びる為にソーテルヌでは辛口へのシフトチェンジが為されているそうで、辛口ソーテルヌAOC設立の話も浮上していると聞きます。しかし、確かに現在辛口ソーテルヌは世界的に高評価を得ていますが、ボルドーAOCとしか呼称出来ず、地元では甘口イメージを重視する造り手もおり、この話には賛否両論あるそうです。確かに、曾て砂糖が高級品であった事による「甘味=美味」の時代は終わりました。しかしそれでもまだ「甘口=贅沢」はワインにおいては健在です。この食後の至福を齎すワインを是非一度試して頂き、ソーテルヌを応援しましょう!