第六瓶 旨味のオレンジワイン

 前項にて 旨味 を扱いました上は、明確に旨味を感じさせてくれるワインについて稿を割いて置きたいと思います(因みに日本酒には白ワインの十倍程の旨味が含まれているという)。スティルワインの分類において、赤、白、ロゼに続く、第四のワインとも呼ばれるオレンジワインです。これは一言で申しますと、白葡萄を赤ワインと同じ工程で醸造したワインの事です。赤ワインは果皮や種と共に醸しを行う為、赤色が付きます。一方、基本的に白ワインは果汁のみを発酵させる為、白色と言うよりは、黄色を帯びます。したがって黒葡萄を果皮無しで醸造すれば黄色よりはやや深めのトパーズ色に為ります。以前或る試飲会でカベルネ・ソーヴィニョンの白ワインを試させて頂いた事があり、やはり黒葡萄だけあって味わいに厚みを感じました。最も身近なものは、スパークリングワインのブラン・ド・ノワール(「黒の白」の意で、主にシャンパーニュの主要品種である黒葡萄のピノ・ノワールやムニエのみから造られた泡)でありましょう(カベルネから造られた泡も商品化されていますが、酸度を得る為に早摘みするのでしょう、未熟なカベルネに特徴的なピラジン系のグリーンな〈セロリの茎の様な青っぽい〉風味が有り、余り好ましいものとは言えません)。という事で、白葡萄を果皮ごと醸造したらどう為るか? もうお分かりですね。この醸造法をスキン・コンタクト(※1)と言うのですが、果皮の香味成分を果汁に与える為、一般的には約3~24時間漬け込みが行われます。この醸し時間が長いと、苦味成分であるポリフェノール化合物が抽出される為、その前にこの操作は終えられます。しかしこの位の漬け込み時間ではオレンジ色までは行きません。という訳で、ステンレスタンク/木製発酵槽、果梗(茎)の有無などのオプション選択は勿論造り手次第ですが、オレンジワインはスキン・コンタクトとその後の熟成も合わせて、一般的に3~8ヶ月間続けられると聞いております。

 オレンジワインの始まりは、イタリア北東部のフリウリ‐ヴェネツィア・ジューリア州、ヨスコ・グラヴネルがアンフォラ(※2)を使い醸造し、1998年に初めて瓶詰めしてからなのですが、元を辿れば8000年前のジョージア(※3)が起源で、現地では「アンバーワイン」「ゴールドワイン」と呼ばれ、クヴェヴリなる、浸透防止に内部に蜜蠟を塗った素焼きの醸造用土器にワインを入れ、地中に埋め一定の適温で発酵させながら、現在でも造られております(日本でも奈良、平安時代には酒甕を地中に埋めていたようで、今日でも九州の焼酎工場の一部で行われている)。此処で注意が必要なのですが、必ずしもクヴェヴリワイン=オレンジワインという事ではないという事です。クヴェヴリには葡萄を房ごと入れる場合もありますが、多くは粒のみ、或いは一般的方法で醸造されたワインとブレンドする場合もあり、無論赤ワインも造られます。飽く迄クヴェヴリはジョージアの人々にとっては、国の伝統的な且つ最適な醸造法なのです。歴史や伝統というものは、一つの事象に対し確かに制限を与えますが、一方でその可能性を広げ得るものでもあるのです。

  https://www.tanakaya3.com
この製法は2013年ユネスコ世界無形文化遺産に登録
http://wineprty.jp

 葡萄品種は、基本的にどんな白葡萄からでも造れますが、伝統的にはルカツィテリ(※4)で、一般的には果皮に香味成分を多く含む アロマティック 品種(ゲヴュルツトラミネール、ヴィオニエ、マスカット等)、またシャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、そして日本では果皮に若干のアントシアニン色素を含むグリ系の甲州も使われております。しかし残念ながら、おおむね長い酸化熟成期間を経る為に品種個性は失われ、結局どれも似たような香味になる事は否めません。その一般的な特徴とは、香りは乾燥オレンジの皮、ジャックフルーツ(果肉感のあるトロピカルフルーツ)、潰れた林檎、ジュニパー(杜松ねず)、ニス、アマニ油、また酸化熟成による紅茶やヘーゼルナッツ(※5)と、正直余り美味しそうに聞こえないものばかりです。味わいは果実の皮を思わせる酸味、赤ワインにも劣らない渋み(但し「タンニン」ではなく「フェノリクス」と呼ぶ)、出し汁的旨味と、こちらも余り飲んでみたいと思わせてくれない表現になってしまいます。要するにオレンジワインとは、皮と種による 渋み、旨味、苦味が主体のワインで、中には「泥臭い」と言う方もおられます。ただ、その皮と種が抗酸化作用の働きをする為、勿論全てではありませんが、二酸化硫黄〈⇒ワインの亜硫酸〉が不要の「Vinヴァン Natureナチュール (自然派ワイン)」が多いという事も押さえて置きたいポイントです。またVeganヴィーガンワインも在ります(※6)。

 適切な飲み方としましては、より長い醸造期間が取られたと思われるオレンジ色や赤錆色のワインは、大振りの瓢箪型 グラス の方が、小振りグラスに比べ酸味が控えめに感じられ焦点はややぼやけますが、豊かな風味の表現においては優ります(より醸造期間が短いと思われる、よりフレッシュな黄色主体のワインは酸味を活かすため小振りが適切です)。温度は、渋みが強調されるため12℃以下にしない事、また「24℃の高めで食後酒として」という本場の造り手の意見も試されてみては如何でしょうか。ペアリングは発酵食品(納豆、キムチ)など、とろみや粘りのある物や揚げ物、また煮込みやアジアンスパイス料理、そして土っぽさの同調で根菜と相性が良いと言われます。要は、癖のあるワインには癖のある料理を合わせましょう、という事です(実験結果〈極端な例〉:納豆や塩辛など発酵食品にはワインの風味が負けないという位で正直合うとは言い難く、昆布や帆立の旨味とは平行する程度でこちらも引き立てる迄は行かず、悲しい哉ゴーヤチャンプルの苦味には流石に負ける。但し、オレンジワインも多様なため一概にこの限りではない)。

 ※1 破砕機や圧搾機の向上により、工程が短時間で終了するようになった1960年代以前はこのスキン・コンタクトに相当する時間があった為、「伝統の復活」という見方もあります

 ※2 ギリシア語で、元々はワイン運搬に用いる容器。内部のざらざらした部分に野生酵母が住み着き、また樽と違い香りが移らない為、葡萄本来の味わいが表現出来るのだとか

 ※3 2015年、外務省からの通達によりロシア語読みのグルジアから英語読みへ(理由は、1991年のソ連崩壊と共にジョージアが独立した為。ソ連時代はロシアからの抑圧、独立後もロシアとの紛争といった対立があり、ロシア語読みを忌避した)。ワイン発祥地、南コーカサス、トルコの隣

 ※4 皮と種のみならず果梗も合わせて醸造すると、それに含まれるカリウムが酸と結び付き、結果ワインの酸度が落ちる為、酸の多いこの品種を使うという。長期熟成には酸とタンニンが必要なのです

 ※5 クヴェヴリは必ずしも好気こうき的な造りではありませんが(密閉されるためむし嫌気けんき的)、オレンジワインやアンフォラで醸造・熟成させたワインの多くは自然派で、好気的/酸化的なスタイルから既に十分な熟成風味を得て発展している為、更なる瓶内熟成による効果は(然程)得られないと思われます(スキン・コンタクトは熟成に耐えられないという意見もあります。ただシャトー・メルシャン製造部長のエノログ安蔵光弘氏は甲州グリ・ド・グリについて、「赤ワインより早く熟成するようで」「セラーに1~2年しまっておくと、より複雑な香りのワインに成長」し「口当たりが丸くなり、紅茶やシナモンの香りが出て」来ると仰っております。因みに今迄私が頂いたオレンジワインの中でベストはこのグリ・ド・グリです)。個人的嗜好に為るかも分かりませんが、矢張りワインは果実感が鍵で、過ぎた酸化熟成は若々しさの証たる果実味と酸味を失う分、甘味と苦味のある老身ワインに為るのです。「ワインというものは歳を取り過ぎると骸骨になるか、又は美しいミイラになる」と、ブルゴーニュの名手ユベール・ド・モンティーユ氏は言っております。たっぷりとした果実の肉感のある新世界のワインは安価でも美味しく飲めますよネ

 ※6 1944年イギリスで設立されたヴィーガン協会に由来し、「如何なる形でも動物への残虐行為や動物からの搾取に関連した一切の物を取り入れない」生き方、即ち肉・魚・卵・乳製品・蜂蜜など動物由来の食品の摂取のみならず、動物に由来する化粧品や衣服等も使用しないライフスタイルを表し、菜食主義者ベジタリアンよりも厳格な主義。ご参考までに申し上げますと、米・米麹・水を主原料とする清酒こそヴィーガン完全菜食主義者向きです。但し、中には澱下げに動物由来のゼラチンを使った物もありますが…。因みに澱と共に香味成分も取り除かれてしまう為、大吟醸クラスはこの過程を経ない物もあります。結局、表記義務は無い為、本記事投稿時点で「ヴィーガン認証」を取得している岩手県の南部美人と群馬県の水芭蕉を除き、実際の使用の有無は直接問い合わせるしかないのが現状です。とは言え、狂牛病問題後、日本酒業界ではゼラチンの使用は控える傾向にある為、殆どは安心してヴィーガンの方も楽しめる酒となっているようです

本日の箴言

 ワインは自然の表現であると同時に文明の表現でもある。ワインが本来の自然さを失わないようにするにはどこまで人の手を入れられるのか? 人工的なものの方が、元の自然よりも自然らしく見える事がある。ボードレールやワイルド、所謂いわゆるダンディと呼ばれる人達は皆そうだ。だから意図的に造られたワインだからと言って最初から間違っているとか不味いとか決めつけてはならない。

ジョナサン・ノシター『ワインの真実』

平日の一本

甲州オランジュ・グリ 2017(シャトーマルス、山梨)

 僅かに薄紅を帯びた濃いめのオレンジの色調、粘性は高め。甲州らしい籠もりがちな香り立ち:オレンジの果肉、びわ、和梨、紅茶の出涸らし、生姜、パンジェントスパイス、湿った白土、仄かにメロンや薔薇、そしてその全てを甘やかなバナナ香が包み込む

 味わいはドライで、風味が直ぐに大らかに広がる。円やかなテクスチャーが柔らかい果実味(これが大事!)とボディにほんのり甘さと豊かさを添え、滑らかな酸が控えめな張りを齎す。透明感のある心地良い苦味、そして僅かなスパイシーさと明確な 渋み が終盤に向かって濃く(アルコール11%表記だが、より高く感じさせる。2018、2019は12%表記)を与えて行く。舌の中央奥で旨味が長い余韻を生む

 冷やし過ぎず12~14℃、大振りの瓢箪型 グラス で。ローストポーク(グレイビーソース+ホースラディッシュ)、穴子(天麩羅)・太刀魚(煮付け)・ししゃも(旨苦味の平衡)、玉子(茹で、焼き)、餃子(ラー油のスパイシーさとの相性)、カレー(スパイシーな料理にも負けない)、アーモンドや胡桃(ナッツの脂肪分の甘味が出る)、オレンジマーマレード(オレンジ風味の同調)などと良く合う

2016年がファースト ヴィンテージ。当ワイナリー関係者曰く「オレンジワインというと、白系のブドウをしっかり醸して造るとイメージされると思いますが、このワインはそういう醸しのキュヴェだけではなく、亜硫酸を使わずに絞ったキュヴェや、亜硫酸を使ってスキンコンタクトを長めにして造ったキュヴェなどいくつかのスタイルのキュヴェを最終的にブレンドしてあります。そのために、柑橘系の甲州の香りとは異なる花のような香りや、フェノレが多いところが特徴とするような香りが主体で、香りのボリュームはあると思います。味も醸しのキュヴェだけではないので、それほどフェノールは強くないと思いますし、種のまわりからくる酸味もしっかりあり、少しだけ残糖を残すことでバランスをとっています」

第五瓶 続・ワインの味わい方 -葡萄酒との対話-

人の五感と五味の分析(味覚)

 続きましては味覚です。先ずは味わい、いては美味しさというものの全体像を捉えて頂きたいと思います。次のリンクをご覧下さい。⇒ 味わいの分析図

 元々フランスの伝統料理は四味で構成されておりましたが、日本食文化の栄光とも呼ぶべき、天然食材に含まれる「旨味」が其処に加わる事によって、食という学問に一層の幅が増したのであります。日本人ほど五味に敏感な人種は居ないと言われています(※)。そして我々の旨味文化と食感文化(擬音・擬態語の多様性)、即ち食材が持つ自然の儘の個性を尊重する食文化、「無味」や「淡」を尊ぶ心を、ようやく世界が理解し始めているのはご存知の通りです(イギリスのスーパーマーケットでは醤油や味醂だけでなく紫蘇や柚子といった日本の食材が買えるように為り、フランスのミシュラン3ツ星レストランでも醤油や味噌、山葵わさびなどは普通に使われる調味料と為りました)。

 ※ 色盲がある様に味盲もあり、西洋人は男性の30%、女性の25%もがそれであると言われる。一方、東洋人は13%と言われ、香味の感受性はより鋭いとされる。但しこれは人種が高等であるという事ではなく、むしろ動物に近いと見做みなされるかも知れない。なお当サイト管理者は人間的な思考よりも動物的な感覚を重んじる者の一人です(我々が人間であるよりも長く動物であった事は、厳然として動かしようのない事実ですからネ)。なお味盲といっても五味の全てが分からないのではなく、特に苦味に鈍感である。因みに、苦味を賞味出来るのは全生物の内で人間だけである

 ではその五つの味を捉える器官に目を向けましょう。

sites.google.comより加筆

 上の図の通り、味蕾が溝に溜まった液に溶け込んだ味覚物質を感知するのです。「味の感覚は一つの化学作用で、昔の術語で言うと湿法によってなされる。言い換えれば有味分子はまず何かの液体に溶解しなければ、乳頭とか吸盤とかいう味覚器官の内部に敷き詰められている神経毛の先から吸い取られないという事である・・・本当に、我々の口を不可溶物の細かい欠片かけらで一杯にしても、舌は触覚を感じるだけで味覚は感じないのである」とはブリア・サヴァラン氏の言葉です(例えば、ビニール袋やプラスチックを口に入れても味がしないのは溶解しない為)。因みに溝にはエブネル腺から出される分泌液により、溝の中身は洗い流され、味覚物質が留まり続けないようになっています。ところで、此処で注目して置きたいのは、舌の後方から奥にかけて味蕾が多い、即ち前方より後方の方が味に敏感、もっと言うと我々は舌の奥側で味を十分に感じているという事です。

 そして味蕾です。

mikakukyokai.netより加筆

 味蕾の数は成人で平均245個と言われており、これら味蕾細胞は2~3週間で生まれ変わるのだとか。しかしながら70~80歳に為ると88個まで減少し、この数だと味覚異常と診断されるようです(嗅覚とは異なり味覚はほとんど衰えないという説もあるようですが、それでも男性の苦味の感受性は徐々に弱まり、女性のそれは閉経と共に一気に落ちると言われています。因みに湯川酒造の湯川尚子女史は次の様に仰っています。「私が思うに女性が生理の時っていつも以上に苦味を感じ易い」)。どちらにせよ、味覚には個人差があり、自分の感じ易いポイントを見付ける事が奨励されます。人の味覚は全く同じではないのですから、嗜好するワインも同じではない訳で、そういった自由さの中にこそ、恋愛の自由さと同じで、面白さが在るのだと思います(「三千人と恋愛した人が一人と恋愛した人に比べ、より多くについて知っている」と言えないのは人生の面白味ですが、「三千本のワインを飲んだ人が一本のワインを飲んだ人に比べ、より多くについて知っている」と言えない事は絶対にあり得ませんが…)

 此処で、お気付きの方もおられるでしょう。「肝心の旨味は何処が感じ易いの?」と。これは飽くまで個人的な体験で、私の舌が狂っていないならばの話ですが、旨味は舌の中央で感じます、というより残る感じです。生のトマトや昆布を食べた時に、いっそ味の素を舐めて頂ければお分かりになると思います。

 では此処で鏡に向かって舌を出して見ましょう。ぷつぷつした乳頭は幾つくらい御座いますか? 直径1cm大の円を舌先に見て、その中に15個未満(10~25%の方)であれば味覚に鈍感、ではなく、苦い物が平気で非常に強い味のワインも楽しめるでしょう。15~30個(50~75%の方)であれば一般的な味覚で、ほどんど全てのワインを楽しめます。では31個以上(10~25%の方)はと申しますと、非常に敏感で、塩化ナトリウムをより塩辛く、クエン酸をより酸っぱく、エタノールに甘味はそれほど感じず、苦味を強く感じる、という具合です。したがって飲酒量は少なめで、より繊細なワインを楽しむ傾向にあると言います。見方を変えれば、他人より五味やアルコールを強く感じるのでワインを十分に楽しめないかも分かりません。しかし嘆く勿れ、実はあなたこそ Super Taster超味覚者です! 何故なら少量口に含んだだけで、味わいのバランスが分かってしまうのですから。そしてこの比率は女性の方が男性の2倍以上多いと言われています(アメリカでの研究によると、言わばこの「味覚過敏」は女性で35%、男性で15%がこれに当たるという)。抑々そもそも、大昔より続く人間生活の営みの中、毒か否かを見極める進行過程で、女性の方が乳頭の数が多いのは必然の結果です。しかし女性は女性ホルモンが生理的に安定していない為、味覚も不安定となってしまう事もまた事実。同じ味を提供する必要のある料理人に男性が多いのはこれが為です。

本日の箴言

 好き嫌いから始まる味覚は、飲み続ける間に進化し変化していくものである。ワインのもつ独自の味わいについて最良の判定をするのは個々人の味覚にほかならない。ワインの鑑賞において、絶対に正しいとか間違いなどというものがあるわけがない。

ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン『世界のワイン図鑑』

平日の一本

Sauvignon Blanc 2018 (Marlborough, New Zealand, MUD HOUSE)

 ややグリーンがかった淡いイエロー。粘性は強めで、果実エキスの凝縮度を思わせる。グレープフルーツ、パッションフルーツ、グアヴァ、アスパラガスやさやえんどうの鮮やかな香り立ち

 ドライ、クリスプな酸、果実感と若干アルコール度(13.5%)の高さを感じさせるミディアムボディ。余韻は中程度。高めの酸と熟した果実感のバランスが取れる5~8℃、小振りの グラス で

 フードフレンドリーな品種だが、特にサラダや菜の花サンドイッチ、或いは葱チャーシューやレバニラなど、グリーンな風味同士の相性には特筆すべきものがある。またサーモンとのペアリングはこの品種のお約束。加えてカニクリームコロッケやレモンを絞る料理とも良い組み合わせ

 清々しいニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランに心が弾む。バッハ:無伴奏パルティータ第3番ホ長調ガヴォット・アン・ロンドーと(軽やかに突き抜けるヴァイオリンの音が爽快な酸と合う)

第四瓶 ワインの味わい方 ー葡萄酒との対話ー

人の五感と五味の分析(嗅覚

 五感とは申しましたが、テイスティングにおいては特に嗅覚と味覚が重要な感覚となりますので、此処ではその二つを取り上げ、今回は嗅覚について考察したいと思います。また「葡萄酒との対話」などと大仰な副題を付けましたのは、「このワインは一体何を訴えているのだろう?」というニュートラルな心持ちでテイスティングをして頂きたいと思うからです。呼称資格受験者の様に、「リースリングだからペトロール香」とか「シラーだから黒胡椒」では、感じ取っているのではなく頭から決め付けている訳で、それは造り手に対しても、ワインに対しても失礼と思うのです。先ずは感じた事を感じた儘に表現する事。そして最終的には、どうしたら最高に美味しく飲んであげられるのかを考える、ワインが放つメッセージを唎き取る、という事が飲み手としての正しい姿勢と考えます。良く言われますように「ワインは生き物」であり、常に(化学的)変化を続けているのです(※1)。其処をしっかりと感じ取ってあげたいものです。 

 www.winetasting-demystified.comより加筆

 上記の通り、香りには二種類あります。鼻腔びくう香気が一般に 匂い と呼ばれるもので、鼻孔を通り鼻腔で感知される匂いの事です。対して口腔こうくう香気は、飲食物を飲み込んだ時の、口蓋こうがいの奥へ行き、裏から鼻腔に入る匂いで(鼻を塞いで放した時に空気が抜け出るイメージ)、口中で アロマ のニュアンスを嗅ぎ分ける、所謂いわゆるフレーヴァーの事です。抑々そもそも香りは揮発(※2)性化合物、気体です。そして口内は温度が高いため、(アルコールの蒸発と共に)匂い分子が揮発して香りが濃くなり、鼻から抜けて強く感じるのです。よって湿度100%(※3)の口内の「あと香」には「たち香」に無い複雑な匂い分子があり、人はそれによって美味しいと感じる訳であります。要するに嗅覚が味わいの大部分を占め(※4)、そしてそれは揮発物のみを感知するいう事です(※5)。摂食行動を個人的嗜好の範囲から社会国家を越えて人類の幸福にまで導いた、ブリア・サヴァラン先生はいみじくもこの様に仰っています。「有味体は全て必ず香りを持っている。嗅覚と味覚の両方に属している・・・嗅覚を奪われると味覚は麻痺する」

    www.planet-science.com
鼻詰まり、鼻摘まみ、嚥下えんげ時に舌を口蓋にくっ付ける → 空気の流通が遮断され、香気が鑑賞されない

 ご存知、ワイン通達がテイスティングで「ズズー」と遣るのはこういった事からで、彼等は空気を含ませる事で香味を引き出しているのです。但しこれは周囲の方々が耳にして快い音ではありませんので、特にレストランでは止めましょう。どうしてもという方は、噛むようにして、無音で空気を含ませましょう。とは申したものの、やはり麺類を頂く時は堂々と、天に響くほど音を立てるべきです。「美味しい物を美味しく頂いているのです」と、神様に伝えてあげましょう。海外の方々の冷ややかな視線など気にするに及びません。勿論「郷に入っては郷に従う」もありますが、特にラーメンを啜る効果としては、①麺に絡まったスープが滴り落ちる前に素早く口内に入る(スープにこそ滋味がたっぷり含まれているのです)②前述の通り、空気と共に食べる事であと香レトロネーザルのフレーヴァーに繋がる、の二点です。この二つの相乗効果により、お行儀良く啜らずに時間を掛けて冷めるリスクを負いながら食べるより、四倍も豊かな味わいを感じる事が出来る訳です。来日する方々には是非ともこの理に適った食事作法を体得して、ご帰国頂きたいものです。

ippudo.com
欧米人は一般的に猫舌という(体温は日本人より高く、例えばフランス人が発熱というのは38℃以上)。熱いお吸い物を椀の縁に殆ど口付けずに吸い込むという芸当は日本人特有の技で、欧米人には出来ないらしい。彼等が無音でスープを食べられるのは熱伝導率の良い金属スプーンを口に入れても熱くない程度に予めスープの温度が調整されている為
Cool Japan!

 ※1 (グラス、温度、デカンタージュ の有無などでも変わる)ワインは絶対性の無さが面白い。即ちワインは、神的でありながら人間的な要素も持ち合わせている、神と人の子であるディオニュソスやイエス、或いは天を追われ地で活躍する須佐之男の様な、我々日本人の魂にも共鳴し易い飲み物なのである

 ※2 揮発とは液体から気体への移行現象。熱力学の原理で変化(温度が低いほど弱く、高いほど強い)。グラスをグルグル回すのもこれを期待して

 ※3 低気圧の雨の日は湿気が強くなる為、香りを敏感に嗅ぎ取れる(高気圧の晴れだと香りが飛び易い)。雨の日に森へ行くと樹の匂いが強く感じられますネ

 ※4 香りが味の評価の約七割を占める → 香りもワインの値段に含まれていると考えるべし。人間の感覚において、鼻の方が舌よりも遙かに鋭い。味覚はせいぜい千分の一か一万分の一位の濃度迄しか物の味が判別出来ないが、嗅覚はそれより一桁も二桁も先の十万分の一か百万分の一、物によっては一億分の一以下の濃度でさえ嗅ぎ分ける事が出来るという。尚、オルソネーザルと味わいは別々にしか感じられ得ないが、レトロネーザルと味わいは同時にしか感じられ得ない

 ※5 因みに赤は白より揮発度の低い、分子量が大きい物質を多く含む為、香りが立ち難いという。但しガメイやピノ・ノワールは冷たくても揮発度は高いのだとか

〈追記〉五感の内、嗅覚のみが記憶を司る海馬が在る大脳辺縁系へと入る。即ち嗅覚は他のどの感覚よりも記憶を喚起させる。これを「プルースト効果」と言うのは、『失われた時を求めて』で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌを食べた時に過去の記憶が甦る有名なシーンから。匂いは個人的な体験、生まれ育った国の文化、歴史的な知識に深く結び付く。逆に、匂いを感じないと記憶と感情が結び付かない為、痴呆やアルツハイマーの患者は鼻が悪い場合もあると言う。加えて、嗅覚は加齢と共に衰える。女性の場合、排卵期に鋭くなる(男性より嗅覚細胞が43%多い)。また煙草は嗅覚を著しく鈍らせる(「煙草を吸う人間が料理人として失格する最も大きな理由は、味覚と嗅覚が鈍くなって微妙な味の判断が出来なくなるからだ。煙草呑みの舌や鼻の粘膜の細胞は丸みを失って平べったくなっているそうだ。感覚器官としての感度は大幅に低下している。やにで汚れた舌や鼻で物の風味を味わうのはサングラスを掛けて物を見るのと同じだ」──「美味しんぼ」アニメ版・板前の条件)

本日の箴言

 ソムリエは文化を伝える仕事で、ワインが生まれた土地の風の香りや土の匂いも伝えるべきである。

田崎真也(現JSA会長〈本記事投稿時点〉)

同氏のおススメ動画集はコチラ⇒お役立ちワイン映像集

ホテル雅叙園東京にて

記念日の一本

Barolo 2010, La tartufaia (Giulia Negri, Piemonte, Italy)

 熟成を示すオレンジを帯びた濃いめのルビー。粘性は強い

 第1 アロマ はチェリー系(レッド、ブラック、サワー)主体で愛らしく、第2アロマの 香(1年物6ヶ月、2年物6ヶ月、500トノ-18ヶ月+瓶熟12ヶ月)はスパイスやスモーク。第3アロマが高く、ドライフルーツ(プルーン、イチジク)、ドライフラワー(バラ、スミレ)そして革や茸や土っぽい香り

 しなやかな第一印象。凝縮した果実味とチェリー様の可愛らしい高めの酸、口内をグリップする高いタンニンの 渋み は前半から後半まで一貫する。アルコール14%由来の舌先のピリピリする刺激と喉の熱さ。余韻は長め

 チャーミング且つエレガント、加えてセクシーさも備えた魅力。2010年バローロはクラシックな ヴィンテージ。今でも十分楽しめるが、果実味、酸味、タンニンの高さからまだ2~5年寝かせても良い。17~20℃、大振りのピノ・ノワール用 グラス で〈2019年10月〉

第三瓶 感覚の言語化

 この感覚の言語化が容易たやすく出来れば私が老婆心切を起こす事も無かったろうに、いえ、むしろこの世は詩人で溢れ返っている事でしょう。とは言え、ソムリエは詩人ではありません。ホメロスやヴェルギリウス、ダンテ或いはイェイツなどが詩人です。その霊感、感受性そして言葉のセンスたるや畏るべきもので、常人が如何に訓練しようと養えるものではありません。しかし前回申しましたように、テイスティング能力は才能ではなく訓練の賜物です。反復学習を繰り返し、以前に経験した色香味を自分の記憶に照合させる事なのです。したがって未経験のワインを言い当てるなど土台無理な話で、たとえもしそれが出来たとしても、それは唯の紛れ当たりで実力とは言えません。故にワインの資格におけるテイスティング試験とは、勿論ワイン当ての要素もありますが、それ以上にそのワインが有する要素の分析であります(※)(⇒日本ソムリエ協会呼称資格認定二次試験対策)。アメリカのマスターソムリエのMr.ガイザーは「私の正答率は70%強、もしサンプルが本当に良く、かつクラシックワインだとしたら」「私のワインに対する一番の信念は、信念が正確ではないということ」と仰っております。長期熟成したワインであれば、複雑な自然の力に左右され、その造り手達でさえ当てるのは無理難題という話も伺った事があります。という事で、当てっこゲームにご興味のある方はJSAが毎年5月に開催しておりますテイスティングコンテストにご参加頂いて、此処では先ず我々自身に備わる五感と五味の分析から参ります。

 ※ 先ずは自分で香りを探しながら感じたまま自由に表現してみて、それでも言葉に詰まる/ソムリエのコメントを理解したい/資格を取りたい、という時にテイスティング用語集などを使う確立された方法を取るべし、が個人的な意見です(勿論ソムリエの意見は逆です。必要があれば下のURLからのアロマホイールを参考にしてみて下さい)。何故なら一度既存の型に嵌まってしまうと、それに捕われ、即ち表現の自由を奪われ、結果其処から抜け出せなくなってしまう危険性が高いからです。また 匂い はおよそ500種もあり、更に人の感覚には個人差があるのですから、絶対的な正解不正解など在り得ません。もし人が犬と同じ程度の 嗅覚 を持っていたとしたら全て正解となる筈です。但しそれでは何でも在りの無秩序状態になってしまいますので、その中でも特に強い匂いが試験では正解とされるのでしょう。

アロマホイール⇒htp://www.unicom-japan.co.jp/aroma/wheel.html

外観の表現一覧はコチラ⇒https://winefolly.com/deep-dive/complete-wine-color-chart/

www.exclusive-wine.com

本日の箴言

 人は繰り返しの行いで成り立っている。したがって優秀さとは、行動によって得られるものではなく、習慣の賜物である。

アリストテレス

平日の一本

Albarino 2018 (Val do Salnes, Rias Baixas, Spain. Mar de Frades)

 グラデーションのある濃いめのイエロー

 強い香り立ちは熟した黄桃や黄林檎、洋梨、レモン、スイカズラやカモミール、また白スパイスや潮の香りが爽やかさを演出する

 瑞々しいアタックから高い酸度が充実した果実味にストラクチャーを与えるミディアムボディ。ミネラル 由来の苦味と塩味の余韻は中程度

 リアス・バイシャスのアルバリーニョは「海のワイン」と呼ばれる通り、寿司など魚介類との相性は抜群。8~10℃、中振りの グラス で。潮騒が響くテラスで、青い空と青い海を眺めながら頂きたい

第二瓶 ワインを楽しむために

 ではワインを楽しむ為に必要なものは何でありましょう?

 勿論ワインそのものではありましょうが、更に申しますと商品を購入する資金でありましょうが(望むらくは潤沢でありますように!)、先ずは人が生まれ持つ五感であります(望むらくは健全でありますように!)

 しかしながら、折角自然が与えてくれたこれらの能力を如何に人々は眠らせている事か! 

 テイスティングは才能などという御大層なものではなく、訓練次第で上達可能であるにもかかわらず、皆その努力を怠っているだけ、いいえ、小さな労力を惜しんでいるだけなのです。ああ無念。ブリア・サヴァランの言う「感覚する存在と見做みなされる人間の宿命」というものを、ややもすると現代人は忘れがちです。

 視覚は微妙な色調を宝石の色などに喩える為に、

www.chicagotribune.com

 嗅覚は約500種とも言われるワイン中の 匂い 物質を果実や花、香辛料や化学物質に喩える為に、

 味覚は時間差で 移り変わる五味(甘・酸・塩・苦・旨)のバランスを、また触覚は温度やタンニン由来の 渋み 又アルコールによる熱さや発泡性ワインの泡の刺激をチェックする為に、

 そして聴覚はその泡の状態(※1)を確認する為に使います(※2)。

 そして最も大切なのはそれらを感じた事を言葉にするという作業です。それは、感覚は潜在的に記憶出来ても、自由自在に引き出す事は出来ない為、そこで言語化する事で感覚を記録し、整理し、再確認出来るようにする為なのです。

 休日は是非自然に還り、四季折々の景色と香気と清音を満喫し、五感を鍛えましょう。

 ※1 シャンパーニュの気泡音は「星の囁き」とか「天使の拍手」などと表現されます

 ※2 しかし鏡の前の自分くらいしか、私はグラスに耳を添える人を見た事は御座いません

本日の箴言

 我々の諸感覚は、常にかわるがわる何かに快く満たされようと求めてやまないが、そこにこそ人間不断の進歩の原因が潜んでいるのだ。こうして視覚は絵画彫刻、その他あらゆる種類の観覧物(演劇、映画など)を産み出した。聴覚は旋律を、和声を、舞踊や音楽を、そしてそのあらゆる部門や楽器類を産み出した。嗅覚は香料の探求、栽培、使用を・・・味覚は食物として役立つあらゆるものの生産、選択、調理を・・・触覚はあらゆる技術、技芸、工業を盛んにした・・・結局諸々の学問は、我々が我々の感覚を喜ばそうとしてする不断の努力の直接の結果に過ぎない。

ブリア・サヴァラン『美味礼讃』(原題:PHYSIOLOGIE DU GOÛT味覚の生理学

休日の一本

Bollinger Special Cuvée

 やや黄金がかった美しいトパーズ。良く溶け込んだ持続性の高いクリーミーな泡立ち。重層的で複雑な香りは熟した黄林檎、レモンゼスト、ブリオッシュ、白スパイス、 樽 由来のスモーク、熟成感を示す蜂蜜や生姜にナッツのニュアンスも。時と共に MLF 由来のサワークリーム、また薄口醤油や酵母香も

 素晴らしいアタック。綺麗な酸がドライな印象で広がり、クリーミーな泡の刺激と共に凝縮された果実味が豊かさを生み、旨味 もしっかりと感じられ、苦味が濃くをもたらす。そして塩味のある ミネラル が長い余韻を生む

 古樽使用ゆえ香りはフレッシュ、味わいには深みが備わっている。若々しさ且つ重厚さ、厳格さも併せ持つボランジェ、ゴージャスボディで引き締まった印象は若い時代の007。大振りのピノ・ノワール用瓢箪型 グラス で、冷やし過ぎず10~13℃で。ローストビーフ(胡麻だれやグレイビーソース)、合鴨のロースト、焼き豚など、スモーク香のある肉との相性には特に素晴らしいものがある

第一瓶 開会のご挨拶

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 人は生きる為に生きるのではなく、楽しむ為に生きるものです。そして肉体と精神の二つの喜びが、人には与えられてあります。ワインは感覚のみならず知覚にも訴え掛けるものとして、しばしば芸術に喩えられます。歌舞音曲、遊び事は様々ですが、畢竟ひっきょう人の喜びは飲食に尽きるのです。何故ならそれこそ自然の欲求でありますから。そしてロレンツォ・ヴァッラ曰く、「飲むほうは、ぶどう酒か口の中が傷んでいない限り、いつも楽しいものです」

 ささ、より多く人生を楽しむ為に、ワインを楽しみましょう!

ワインエキスパートとして

 ワインの啓蒙及びワイン愛好家の増員は我々ワインエキスパートの使命だが、無為無策のまま漠然と臨んだとて効果は期待出来まい。その為には先ず他の酒類と比較しても、歴史や文化、或いは地理や農業、更には科学や芸術に至る、より多くの学問の要素を有するワインの絶対的な価値が認められる必要がある。そして我々はそれらを先入観無く公正に、簡潔に分かり易く、つ明るく開放的な調子で伝達する事が出来ねばならぬ。「難解で理解に苦しむもの」から「複雑で深遠なもの」という見解へと発展させねばならぬ。もしそれが出来ぬのならば、その行為は唯の独り善がりの自己満足であり、その者は真のワインエキスパートとは言い難い。説明をわずらわしく億劫おっくうなものと思えばその先は無い。困難な事にこそ価値が宿る。自分が理解し、理解して貰えるように説き明かしたならば、必ずその行為は報われる筈である。

 屢々しばしば安価で美味しいワインの話題を振られるが、酒は嗜好品以外の何物でもない上は、その人の好み及びTPOによって「美味しさ」は異なる事を前提に、有資格者として、相手にとって美味しいワインを探り当てる事が出来ねばなるまい。相手の表情や仕種を見て、相手の望んでいるものを察知する事は、サービス業において必須の能力である。ひと目で相手の健康状態や経済状態を見分けられねばプロとは言えない。確かに我々ワインエキスパートはサービスのプロではないが、伝道者として、学問だけでなく人間性も含めた教育のプロに為らなければならぬ。異なる学問的視点からの正しい知識を備えた上で説明する事こそ、プロの教育者と言えるのである。そして相手が望むワインを選ぶには、込み入った知識と数多くのテイスティング経験が必要とされる。その為に時と労力と資金を費やし勉強する、それがプロとしての誇りである。

 「あの人とあの料理と共にあのワインを楽しもう」と考える事が許される恵まれた時代、一方で若者のアルコール離れが進む時代、美食志向を持つ中心的世代の三十代後半から五十代の人々を主な対象にして活動を進めて行く事が優先されよう。「飲み易いものであれば良し」という人ばかり相手にしても真のワインの価値は認められず、ワインを酩酊する為だけに飲む人々が居たならば、早急に彼等の前を通り過ぎよう。人生の時間は限られている、砂時計の如く一瞬一瞬確実に「時」は我々の掌中からこぼれ落ちているのだから。高級嗜好品に対し正当な評価を下せる人は世界で3~5%と言われている。ならば日本では、低めに見積もっても一億の3%即ち三百万人がワイン愛好家に為り得るのである。二〇一六年日本人の年間ワイン消費量は僅か3.4L(約4.5本)、二〇一九年でワインエキスパートは計17,112人、ソムリエ協会会員は15,048人、まだまだ開拓の余地は残されている。この国において、ワインというややこしくも素晴らしい飲み物の価値はいまだ十分に理解されていないのだ。

  原案:『酒師必携 新訂』日本酒サービス研究会・酒匠研究会 連合会編、右田圭司監修

観覧上の注意及びサイトの存在理由

 このサイトでは筆者の実体験、特に感覚的に経験して来た事を基に製作されます為、極力科学的な視点、或いはワイン業界での共通認識に沿って展開致しますが、ワインは結局自然の産物、即ち神的飲料の為、説明不能な所が御座います事をご承知置き頂いた上、お読み下さると幸いです。但しご不明な箇所等御座いましたら遠慮無くお問い合わせ下さい。一流の方々はご多忙故、Diploma D3の容量を記憶の樽に納め切れなかった、高く見積もっても三流の筆者が僭越ながら、分かる限りの事はご返答差し上げます。ワインは好きだけど資格までは考えていない方やワイン教室に通う暇の無い方、勿論資格を狙っている方や既にお持ちの方もお気軽にご利用下されば存外の喜びであります。(加えて、ワインを体系的に学ぶには相応の資金が必要で、敬虔なバッコスの徒としてはそれに対し不服を唱えざるを得ないのであります)

 ささやかな学会では御座いますが、皆様と楽しみをご共有出来ましたら幸いです。