第四十瓶 清酒と健康

「笑いは百薬の長」とか「笑いに勝る良薬なし」とか、或いは「一笑一若いっしょういちじゃく」などという言葉が御座いますように、古来より笑いは健康に良いとされておりますこの国の世界に誇るべき文化の一つである落語を前稿にてご覧になり、既に腹をよじって下さりました皆々様には必要無かろうテーマで御座いますが、曾て『ワインと健康(⇒赤ワイン編)(⇒白ワイン編)』について述べました上は──今迄の記事において健康にとって有害な考察も少なくなかった事は棚に上げて──日本酒と健康の関係について無視する訳には行かなかろうという次第で御座います。それに加えまして、これは前稿において述べられた事で、また態々わざわざ述べなくとも日本人なら大抵知るところでありますが、日本人の飲酒は酔う事が第一義とされます。それは民俗学的考察にも基づくものなのですが、飲酒による非行(※1)、交通事故、アルコール依存症、離婚や家庭崩壊、そして常習的欠勤といった社会的弊害が原因でもはや酔っ払いが許されず、且つアルコール離れが広まっているこの時分、人々にどの様にして清酒に親しんで貰うかという事が問われている今、超高齢社会ならではの健康志向にかこつけ、多種多様の酒類が混沌と溢れ返っている中でも矢張り日本人には日本酒に帰って頂きたく思うのであります(※2)。何故ならば、世の中が混沌として来ると、古今東西の戦略家である諸葛亮しょかつりょう山鹿素行やまがそこう、クラウゼビッツ等が口を揃えて「原点回帰」を我々に諭すからであります。では、古代より連綿と先人達が継承してくれた貴重な財産、日本文化の極みとも言うべき日本酒の原点とは何か。──手頃価格で勿体振らずにみんなで美味しく楽しめる、防腐剤絶無の衛生的健康飲料であります(※3)。

 ※1 英国外交官オールコック(Rutherford Alcock、1809~1897、滞日1859~1864)は日本見聞録『大君の都』で次の様に書いている──「郊外の花見で鯨飲し、凶暴になって刀をふりまわす侍や、泥酔して道路上に大の字になって寝ている下層階級の男・・・総じて飲むと狂暴になる日本人」

 ※2 一種のみに長けた通ではなく、各種の酒類を知った後だからこそ、クロスオーヴァ―的な評価が出来る事もまた事実ではある

 ※3 酒の変質や腐敗防止に使う食品添加物(保存料)は、ワインでは亜硫酸塩、ビールではエルソルビン酸、日本酒には使われていない(→許可されている添加物は 生一本 ※3参照)

 ところで日本人の平均寿命は、WHOが公表する2023年におけるデータに拠ると、女性87.832歳、男性81.782歳、計84.82歳、男女差6.05歳で、日本は世界三位の長寿国であるとの事で、男女共に遂に「人生八十年時代」が到来したようです。尚この男女差は、男性の生物学的な体質、喫煙習慣、過飲酒や社会から受けるストレス(※4)の差が原因と指摘されておりますが、社会的責任を男女平等に分担する社会が実現しつつある今、この数字も徐々に縮まって行くものと推測されます。どっこい、如何に寿命が延びたとは言え、体が動かぬ植物的な暮らしでは何の生き甲斐もありません。しかし専門家の口から、「食習慣を見直す事により、寝たきりや痴呆ではなく長寿で、美味しい物を食べて質の高い生活が出来るように為る」と聞けば、超高齢社会の展望は一概に暗いとは言い切れないでしょう。そして今や、何をどれ位摂取すれば楽しく長生き出来るのかが明確に為って来ているのですから、正にWHOの標語 “Eat Wisely, Live Well” の時代であります。

 ※4 近年ではストレスを起因とする労災認定の件数が増加傾向にあるという。ストレスは糖分、塩分、脂質を多く含有し、準備が簡単、高カロリー、高炭水化物の味の好い食品、詰まり “Comfort foodコンフォート・フード” の摂取量を増加させる。“Adults, when under severe emotional stress, turn to what could be called ‘comfort food’”──Palm Beach Post

WordPress.com 多くの Food Pyramid ポスターは各種食材の土台に二本の箸が添えられた山盛りご飯を載せる。米と健康の関係が国際社会に認知されて来た証しである。因みに、平成二十五年十二月四日に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され(参考:清酒の国際化の※2)、米・魚・根菜からなる栄養バランス、そして豊富な 旨味 を有する出し汁・発酵調味料は、日本人の肥満しない健康的な生活と長寿に大いに寄与している事から、海外では年々和食店が際立って増加し、スーパーマーケットでは、以前はアジアコーナーの一部でしかなかった日本食材が独立して陳列されているケースが目立ち、和に対する需要が拡大しているそうである。又、ヨーロッパの食文化にも変化が見られるようで、例えばフランス料理でも健康志向を背景に、クリームや肉がふんだんに使われたものよりも、野菜や魚の素材の味を活かす料理が増える傾向にあり、赤ワインよりも白、ロゼ、そして日本酒との相性の良い料理が増えて来ている

 扨、「ワインが健康で成功したからといって清酒まで体によいなんてPRするのは愚の骨頂。益々ワインの後塵を拝することになる。需要開発に努力すべきことはまだまだある」と業界の新聞に書く関係者もいる中で、又「栄養知識が伝統・文化よりも優先される浅薄な風潮も猛省しなければならない」と批評する専門家もいる中で、遍く一般人を対象に始めた(筈の)当サイトは矢張り巷の嗜好を無視する事が出来ない訳であります。勿論ワインは健康だけで成功したのではありませんし、世界各国で造られているワインならばいざ知らず、「日本の伝統文化を少しも意識せずに日本産の清酒を飲む事が果たして出来るものか」と疑う(※5)筆者は、清酒が持つ機能性と健康効果のみを以下に書き連ねる次第であります。(情報は主に『清酒及び醸造副産物の機能性』(伊豆英恵・鎌田直樹・高橋千秋)を参考にした)

 ※5 何故なら、美味な物への関心は、「何故この様な香味に為るのか?」「これは何から作られているのか?」といった、その魅力の根源の探求へと向かい、そしてその関心は徐々に深化して行く事に為るからである。──「学習」が必要とされる「娯楽」を人は「芸術」と呼ぶ。五感の内でも味覚、詰まり味わうという行為は、他の四つの感覚と共に機能する分だけ、より高度な身体知を伴う(→味わいの分析図 参照)。そして身体知の多くがそうであるように、味わいというものは強く暗黙的である。明るみから暗がりへ移るには視覚を慣らす必要があるように、清酒を判る為には味覚を慣らす必要がある。絵画や音楽、文学と同じで、本物を数多く観賞する事により、次第に悪い物が分かって来るのである

清酒

・風呂への投入:アミノ酸、有機酸、グリセロールによる皮膚の保湿性と入浴後の保温性、清浄化の促進、疲労回復(ヒトモニター試験)

・塗布:痛み止め(湿布薬)効果、アトピー性皮膚炎

・化粧料との併用:優れた美肌作用(しっとり感・張り・艶の相乗効果)、日焼け止め効果(ヒトモニター試験)

・摂取後:肌の水分量が上がり、特に純米酒での保湿効果の向上(ヒトモニター試験)

吟醸 香成分によるリラックス効果:本醸造酒よりも吟醸酒で抗不安作用が高い(マウス実験)

・胃粘膜保護:白ワイン、清酒の胃刺激作用はウィスキーよりも穏やか。グルコースの寄与と推測

・抗酸化:糀そのもの及び糀が生成する物質が寄与すると推測

・癌細胞生存率低下:NKナチュラルキラー活性、乳酸菌、サイトカイン、米抽出エキス、セレン、糀によるアスペラチンや抗腫瘍物質の作用(マウス実験)

・肝保護作用(マウス実験)

・抗炎症:ピログルタミルペプチドの作用

・高血圧改善:ペプチドの作用(マウス実験)

・痴呆、健忘症抑制:大脳の海馬に多いプロリルエンドペプチダーゼの作用(マウス実験)

・老化防止、鬱病、肝臓強化:抗酸化物質フェルラ酸、S-アデノシルメチオニン、バソプレッション、ビタミンEの作用

・肝細胞生存率向上:酒粕ペプチドの作用(ヒト肝細胞、マウス実験)

・A型肝炎:ダルタチオンの作用

・胃副交感神経活性化:酒粕ペプチドの作用、消化管の蠕動促進による食物の消化・吸収機能の向上を推測

・エチルα-D-グルコシド(清酒中に凡そ0.2~0.7%含まれる清酒特異的な糖成分、即効性の甘味と遅効性の苦味を持つ呈味性成分)→荒れ肌抑制効果の推測(皮膚への塗布で経皮水分蒸散率が抑制)。肝障害抑制の推測。体重増加抑制(マウス実験)。腸内菌叢改善の推測(難消化性)

・α-D-グルコシルグリセロール→正常な皮膚の形態維持やコラーゲン及びヒアルロン酸産生(塗布によるインスリン様成長因子IGF-1の増加、マウス実験)。皮膚の弾力性増加。髪の太さや密度に改善傾向(α-GG添加ヘアローション・養毛剤・育毛剤の提案、ヒト試験)。糖尿病や肥満予防(α-GGのアディポネクチン産生促進作用)。血糖値上昇抑制。脂肪細胞における中性脂肪の蓄積抑制効果

樽酒

(樽酒については用語集「」を参照)

・酸化及び消臭活性(ノルリグナン類のアガサレジノールとセクイリンCによる)

・料理の脂分を洗い流す(タンニンによる)

・魚介類等の 旨味 を持続させる

酒粕

(酒粕については用語集「吟醸」の※3を参照)

・風呂への投入:皮膚の保湿及び角質除去効果(入浴剤としての提案)。美肌効果が期待(チロシナーゼ阻害活性の確認)。皮膚の色素沈着やシミ、そばかす防止効果が期待(チロシナーゼ活性及びメラニン合成阻害の観察)

・塗布:皮膚炎、主婦湿疹の改善。肌老化防止(加齢による上皮成長因子の分泌低下が肌老化を齎すが、酒粕由来のプロテアーゼインヒビターはそれの分解を防止し、皮膚浸透性を向上させる)

・摂取:癌、肥満、アルツハイマー病等の各種疾患、皺やシミの発生の予防(それらに関与する血管新生の抑制)。腸内環境の改善(ビフィズス菌増殖促進)。脂質代謝(血清及び肝臓コレステロールと肝脂質量が減少し、胆汁酸増加による脂質排泄量増加を観察)。発肝障害抑制(肝臓のS-アデノシルメチオニン含量増加による可能性)。自発運動活性(上記全てマウス実験)。ヒト胃癌細胞増殖抑制(ヒト末梢血リンパ球におけるNKナチュラルキラー活性化、癌関連酵素の阻害)。抗酸化作用(不飽和脂肪酸酸化抑制)

・難消化成分レジスタントプロテイン(醪中で溶解せず、胃酸でも分解されず小腸に達する、食物繊維様の生理活性)→肥満抑制効果、肝臓コレステロール及びトリグリセリド低下(脂肪組織減少の観察)。内臓脂肪重量減少、糞中脂質排泄量増加(酒粕難消化成分はカニ由来キトサンよりも高い脂質吸着能)。この成分は特に液化仕込みの酒粕に豊富だが、普通酒粕や吟醸酒粕と比べて液化酒粕は全糖量が少なく、粗蛋白質が50%以上と多いため食用には不向きで、多くは肥料や飼料として安価に取引されている

 他にも狭心症・脳卒中・心筋梗塞などの虚血性心疾患、不眠症や骨粗鬆症リスクの低減、風邪・インフルエンザ・新型肺炎・感染症の防止、果ては肝硬変予防(※6)という矛盾的効果もあるようですが、矢っ張り切りが無いのでこの辺で止めて置きます。とまれかくまれ、こういったところが専門家による研究から判明した清酒の持つ効用であります。ご存知の通り、醸造物の健康機能は科学的に裏付けされているものが多く、その一つである酒類はアルコールの弊害よりも機能性の面から論じられる事も屢々しばしばですが、殆どの人の病気が根本的に遺伝子からの影響で、それらが食生活によって殆ど改善されるという現在の医学から見れば、清酒の機能性はもっと強調されても良い気がします。そして無論それらの大部分が黄糀菌と米に因るのであり、必ずしもアルコールに由来するものではないという事を敢えて付け加えておきます。何でもWHOでは純アルコール150mL以上を毎日飲用する人を大量飲酒者と定義しているそうで(※8)、この飲酒量は一般清酒に換算すると約七合に相当しますが、日本人の場合、体格などから換算してこれより少なく考えるべきで、詰まり日本人の許容限度でもある四、五合と見做しても良いかと思います。抑々日本人は、ALDH2(Aldehyde dehydrogenase2アセトアルデヒド脱水素酵素)活性型(酒に強いタイプ)が約50%、不活性ヘテロ(酒に弱いタイプ)は約40%、そして不活性ホモ(完全な下戸)は約10%居るとされ、つづめて言うと、アルコール分解能力は個人差が大きく、日本人の約半数が遺伝的にアルコール分解能力が無いか低いとされている、という事です(※9)。(因みに白人は全て活性型なのだとか。しかし白人や黒人ではエタノール代謝が遅い、ADHアルコール脱水素酵素アイソザイムである野生型のADH1Bが多く、詰まりアセトアルデヒドが出来る速度が遅い為アルコール依存性に為り易く、また翌日まで酒が残り易いという。なお日本人はエタノール代謝の早い変異型が多いとの事)

 ※6 蛇足だが、酒飲みにとっては重要な情報と思われるので載せて置く。アルコール関連肝疾患の進行を遅らせる物としては、無論断酒や減酒が重要だが、コーヒーや緑茶の摂取も有効との事。よって和らぎ水(※7)も良いが、チェイサーとしての緑茶が、口内の味わいを乱さない為お勧めである(言う迄も無いがコーヒーは香味が強過ぎる)。又アルコール摂取によって最初に起こる肝の変化は脂肪肝であるが(その後肝炎そして肝硬変へと悪化して行く)、その程度に関係無く3~4週間の禁酒によって消失するとの報告がある(言う迄も無いがあなたの意志の強固さに尽きる)

 ※7 飲酒の合間に水を飲んで酔いの速度を緩やかにし、深酔いを防ごうとするもの。清酒の仕込み水と同じ水だと酒の味を邪魔せずより一層美味に感じさせる。元は石川県酒造組合連合会が公募して決めた名称

 ※8 Alcohol Use Disorders IdentificationTest (AUDIT:アルコール使用障害スクリーニングテスト)に基づき、1ドリンク=純アルコール10gより、2ドリンク=清酒1合として計算し、健康21(第二次)、及びWHOのガイドラインに基づいて、1日当たりの推定アルコール摂取量男性40g以上、女性20g以上の者が「生活習慣病のリスクを高める量の飲酒」、及びそれ未満が「適量飲酒」とされる

 ※9 homozygous / heterozygous:同じ対立遺伝子を持つものをホモ接合体、異なる対立遺伝子を持つものをヘテロ接合体と言い、ヒトのABO式血液型ではAA、BB、OOの遺伝子型がホモ、AO、BO、ABの遺伝子型がヘテロである。正常型ホモ接合体(上戸)、ヘテロ接合体(中戸ちゅうこ)、変異型ホモ接合体(下戸)の三種類の遺伝子型が知られている。因みに「上戸」という語は平安時代の『大鏡』や『今昔物語』等にもあり、かなり古くから使われていた。「中戸」は中くらいに酒が飲める人、又は酒は飲めるが直ぐに顔に出る人、或いは飲酒開始時は酒に弱いが慣れると飲めるように為る人の事。尚、顔が赤く為るのはアルコールがアルコール脱水酵素過酸化水素生産系で分解を受けて、詰まり酸化して生じる CH3CHOアセトアルデヒド が血管拡張させる為で、これが蓄積すると悪酔いを起こす。これは更に酸化され CH3COOH酢酸 に為る(そしてこの反応を触媒する酵素ALDH2を遺伝的に持たない日本人を「下戸」と呼び、この酵素が遺伝的に少ないのが我が国の弥生人(※10)体質なのである)。その後、酢酸は水と炭酸ガスに分解され体外に排出される

 ※10 日本列島の複雑な地形と豊かな生態系が齎す自然の恵みは、狩猟漁撈採取に頼っていた縄文人の生活を支えるのに十分だったため農耕は必要とされなかった。しかし紀元前数百年の寒冷期が生態系を変え、縄文人は食糧不足に陥り凋落して行った。生活に余裕が無く人口の少ない所では、国はおろか集団社会も出現しない。世界のどの地域でも、農耕を行って食料を安定的に確保出来るようにしなければ文明は興らなかった。そして日本では稲作農耕が普及する弥生時代がその時期に当たる。特に三世紀前後弥生時代後期、卑弥呼の時代のヤマタイ国人の食生活は恵まれており、『魏志倭人伝』には「有力者はみんな四、五人の妻を持ち、庶民でも二、三人の妻を持っている」というくだりが在る。しかも妻達は貞操観念が強い上に、焼き餅を焼いたり、夫を嫌ったりしないという。その上、盗みも無く訴訟事も少ない。余程の経済的な裏付けがなくば、この様な平和な社会は成立しない。生活安定最大の基盤は米の生産性の向上に在ったのは確か。しかも「倭人は長命で百歳ないし八、九十歳まで生きる」とあり、「人々はみんな酒好きだ」ともある(「其會同坐起 父子男女無別 人性嗜酒」(その会合での立ち居振る舞いに父子や男女の区別は無い。人は酒を好む性質が有る)。彼等が塩辛や原始的なれ鮨、漬け物などの発酵食品を食べていた事も分かっており、「一夫多妻で飲酒して長生き」とは、ヤマタイ国こそ理想郷ではなかろうか

 要するに、清酒は毎日少量飲めば長寿への道連れとなり、飲み過ぎさえしなければ何一つ悪い事は無いという事です。とは言え、飲酒習慣が無い人はその儘で居るべきで、「百薬の長」だからといって無理に飲む必要は更々ありません。それは、「健康の為には飲酒すべきである」と言える程ではないからであります。健康長寿の秘訣は腹八分目、栄養バランスの取れた食事、控えめな塩分摂取、適度な運動、ストレス解消などのようですが、当サイトではそれらに「適正飲酒」も加えて置きます。逆を言うと、不健康短命の原因は、満腹、塩分摂取過多、バランスの悪い食事、運動不足、喫煙、そして多量飲酒であります(それらに加えて低所得や医師不足、高血圧に糖尿病なども挙げられましょう)。昨今のコロナ禍において、自宅での飲酒量が増えているとの指摘もありますが、それは声高にして注意喚起せねばなりますまい。成る程、アルコールは肝硬変、精神病、癌各種、膵炎、虚血性心疾患、高血圧、胎児への悪影響といった様々な障害を引き起こし得る毒ではあります。が、薬も用量を誤れば毒なのです。適量飲酒は長期的な健康に繋がり、社会的・宗教的習慣とも深く結び付いて、又アルコール市場における雇用や政府の歳入にも大いに貢献する、全く軽視出来ない毒薬なのであります。葛西善蔵ぜんぞうの言葉を借りれば「酒はいいものだ。実においしくって。毒の中では一番いいものだ」なのであります。

 ──これにて本稿はお仕舞いです。では筆者は今夜も、国家の元気を増大する酒類業界の発展並びに酒類文化を通じた国民の健康的且つ文化的生活の向上を祈念して、「毒」をあおる事に致しましょう。

〈補足〉昔から清酒を多く飲用する力士や杜氏の肌が張りや艶と共に綺麗であるなど、清酒には美容に纏わる数多の伝承的事実が存在し、例えば「ひびあかぎれの手がつるつるになる」とか「火傷が早く治る」とか、勿論「シミそばかすに対する美白効果」といったものがあります。そしてそれらの効果は時代と共に実証されて来ていますが、実際、清酒を手の甲に一滴垂らして摺り込むとしっとりとした感じを受けるものです。抑々艶々した肌、瑞々しい肌を保つ要因は脂質と水分であり、どちらも適量存在する事が重要なのですが、一般には多くの人がそのどちらも不足しがちで、特に加齢に伴い不足傾向が強まり、徐々に潤いの無いカサカサした肌に為ってしまいます。潤いのある肌を保つには、皮膚の皮脂膜や角質層の状態を見ながら、適度な脂質と水分を補給する事で、脂質の場合は乳液などを表皮に塗る事で容易に補給出来ます。しかしながら水分は単に水を塗っても直ぐに蒸発して効果が得られないので、保湿成分と呼ばれる、水分の蒸発を抑える物質が必要になるのです(皮膚の水分は皮脂膜の下に在る角質層に蓄えられている為、保湿成分とは皮脂膜を通して水分を角質層に溶かし込む働きを持つ物質である)。現在化粧品として利用されている保湿成分としては、グリセロールやアミノ酸などの生体代謝物やヒアルロン酸やコラーゲンの様な皮膚の構成成分等があります。清酒にはグリセロールやアミノ酸など他の酒類に比べて多くの保湿成分が含まれている事が判明していますが、日本では酒風呂でその効果が見出され、昔から美容と健康の為に利用されて来ました。但し現在では、酒は50倍、酒粕は10倍に薄めないと効果が無いという研究報告もあるくらいなので、個人差がある事はお断りして置きます。と申しますか、科学的見地を一々述べませんでも、抑々適量の酒は健康に良く、そして健康であれば肌の色艶も良い訳で、詰まり「健康=美容」なのでありますから、美をお求めの方は適切な運動と睡眠を心掛け、そして何より健康を害するような飲み方さえしないようにすれば良いだけの話なのでありました。生半な栄養知識に振り回されるより、適量の酒を食膳にのぼし、楽しい食時を過ごす方が遙かに健康的なのでありました

本日の箴言

 結局のところ、健康志向と享楽志向との相克ということになるのではないか。そして、それは個々人の人生観にかかっている。うまいものを食っての人生なのか、それとも健康な人生なのか。しかし、私はふと思う。健康はなんのためのものであろうか。

吉田集而(文化人類学者)

 酒も煙草も 女もやめて 百まで生きたバカがいる 

古川柳

休日の一本

亀萬 玄米酒(レイホウ、精米歩合100%、合鴨農法無農薬米、米糀精米歩合70%、日本酒度−20、酸度2.0、アルコール度15%)(熊本県葦北郡)

 濃いゴールドの色調、くろい米由来の独特な香り:栗、籾殻、ドライアプリコット、炒ったナッツ、ウースターソース、味醂、生姜、薄口醤油、蕎麦茶、シェリーアルデヒド、そしてミントの爽やかな香りも感じられる

 第一印象は控えめで、中盤から円やかで深みの有る栗様の苦味も感じられる甘味がグッと口内に広がる、が直ぐにスッと引いて行き、諄く残らない

 30℃:栗の蜂蜜をより洗練させてトロミを失くし飲み易くしたような液体。栗好きには堪らん。デザートとして単体でも好く、モンブランと合わせても好い

 40℃:栗風味は相変わらずだが、苦味が強く為り、やや雑に感じられ、柄が悪く為った印象。ブルーチーズやカレーにも合う

翌日は味が饐えて、栗に代わり大根及び蒸した薩摩芋の風味に為り駄目。一方で肌の滑りが明らかに良好なのは玄米由来か? 玄米は精白後の白米に比べて凡そ二倍のビタミンやミネラルを含んでいる(ので、本来の玄米という形で体内に取り込めるなら、それに越した事は無い)。酒造において美味の追求という嗜好品としての最大の課題が、原料米の外側に在る栄養分を捨て去る結果を招いたが、醸造技術の進歩により最近では玄米酒も造られるように為って来た
熊本県:吟醸 造り発展に貢献した「熊本酵母」発祥県(「香露酵母」とも呼ばれるきょうかい9号は信用度の高い吟醸酵母の定番。「酒の神様」野白金一博士の開発した酵母という事で直接分けて貰う蔵元も少なくないという。特徴は酢酸イソアミルバナナ地味クラシカル。YK35に必要な酒造の神器の一つ。一方で純米酒に使用すると酸度・アミノ酸度が高く為り重く為ると言う蔵元も)。香り高く円やかな吟味の吟醸酒、濃醇辛口の傾向。合わせるべき郷土料理はコチラ⇒http://kyoudo-ryouri.com/area/kumamoto.html

第二十四瓶 ワインの亜硫酸(二酸化硫黄SO2の俗称)

 健康をお題目にして話を進めて参りました上は、人々がまるで悪の権化か、でなければ年齢と共に増える小皺こじわか何かの様に忌み嫌うこの物質についても語らねばなりますまい。そして偏見というものは、言わば固く強張こわばる肩凝り。少々手荒く為るかも分かりませんが、力を込めて揉みほぐして差し上げましょう。

 先ずは結論から申します。これはワインにとって必要不可欠な添加物で、この酸化防止剤が無ければ現代ワインの品質は存立し得ません。ちまたでは今だに亜硫酸無添加ワインが持てはやされているようですが、残念ながらこのSO2無しに付加価値の高いワインを造る事は出来ません。もしワイン産業の根底を支える技術を一つだけ選ぶとすれば、それは硫黄を燃やして発生させた気体の持つ、ワイン変質防止効果の発見とその応用だと言われています。この気体即ち亜硫酸ガスが 樽 の消毒に使われた事は詩聖ホメロスも歌っており、古代ローマではアンフォラの殺菌に使われました。誠に古代の人々はワインを如何に長く持ちこたえさせるかに苦心しました。彼等はワインの酸化を防ぐ為、樽のワインは常に口元まで満たし、補充ワインが無ければ石を入れてでも満量にしたり、壺に貯えたワインの上にオリーヴ油を垂らしてその油層の下から汲んで飲んだりしました。そして盗飲防止用の密栓がやがて品質保持の松脂まつやに(※1)や石灰による密封と為って現在のガラス瓶とコルク栓に引き継がれる事に為り、先の雑菌繁殖防止用の硫黄燻蒸くんじょうガス(※2)がワインに溶け込んで脱酸素剤として活躍する事に為るのです。

 ※1 古代で一般的に使用されたワインの保存料。樹脂は保存料として貴重だった為、東方の三博士マギもイエスに乳香にゅうこう没薬もつやくを献上した。現在はギリシアの松脂入り白ワイン「レツィーナ」として残り、国民により愛飲されている(希少なロゼは「コッキネリ」という名称)

 ※2 実際の作業場面はコチラに⇒お役立ちワイン映像集の“Pop the Bubbly! How Champagne is Made!”(0:48~1:09)。この、固体の「メタ重亜硫酸カリ」の燃焼による樽使用前の衛生処理法も含め、破砕/澱引き/濾過のタイミングでボンベ等に充填されたガスや化合物の水溶液という形で「二酸化硫黄」又は「無水亜硫酸」は利用され、ワイナリーのスタッフは毎日の様に繰り返しSO2の中で作業している。確かにSO2の濃度や晒される時間によって軽度の気管支炎はあれど死ぬ事は無い

 こうして古代より使用され続けて来たワイン中の亜硫酸は、数千年に及ぶ人体実験の結果、既にその安全性は証明されています。それでも「人生は何事も経験。ワインのSO2の有害な影響を体験したい」という私以上のへそ曲がりの方は居らっしゃいますでしょうか? 頑張って下さい、その為にあなたは1日30本以上のボトルを飲み干さなければなりません。そして四日市喘息ぜんそくの症状が出るかなり前に、アルコールによってあなたは病院送りになる筈です。確かにお医者さんは、喘息患者に対して「SO2高濃度ワインは避けた方が良い」と言うでしょう。そして日本においては食品衛生法第11条でワイン1L当たり0.35g未満という規定がなされているのですが、はて、これは多いのか少ないのか? 他国と比較してみましょう。アメリカは日本と同じ、オーストラリアは細かく甘口は0.35g、辛口は0.25g、EUは更に細かくなるので主要タイプに絞って極甘口は0.40g、甘口は0.35g、辛口白は0.20g、辛口赤は0.15g未満と義務付けられています。まだピンと来ませんね。身近な物を挙げましょう。漂白/脱色にSO2を使う干瓢かんぴょうは100g当たり0.5gと多く、ドライフルーツは0.2g、一袋で白ワイン一本分って感じ。フライドポテト一人前に至っては1.9gと、いやはや何という恐るべき量。コーラ1缶0.35gでも日本ワインの規定ギリギリアウトという具合です。因みにこの0.35gという量は、普通の大人が1日1本80年飲み続けても問題無い量で、しかも実際はこの半分以下が一般的、加えてSO2はO2酸素がワイン成分と反応する前にワイン中のO2と結合してくれる為、月日と共にその量は減少します。更に、このもはや無効と為った「結合型SO2」でない、酸化防止剤として有効な「遊離型SO2」は揮発性が高い性質からグラスに注ぐ間も減り、のみならず デカンタージュ やスワリングでも気化するので、最終的に我々の口に入る時点では気にするのも愚かしい程の少量に為っています。(因みに、嫌気的なスクリューキャップより好気的なコルクの方が当然SO2量は多いです)

 という訳で、赤ワインによる頭痛を亜硫酸の所為せいにしている方、残念ながらその可能性は極めて低いです。確かにSO2が体内でヒスタミン放出を誘導する可能性は指摘されておりますが、先程数字で示しました通り、抗酸化物質である酸とタンニンを含むお陰で、赤のSO2含有量は白より少ないのです。「じゃあ一体なんで? 肩凝り、ストレス、体の歪みが原因?」 いいえ、今はワインの話をしておるのです。専門家に拠ると、赤による頭痛は小数の人にあり、それは発酵過程で乳酸菌が生成するアミン類の一種が原因で、それを分解するのに特定の酵素が必要なのですが、その活性度が低い人が頭痛を引き起こすという事らしいです。このアミン類はフルボディの赤に多く、白にはほとんど無く、又これは同じ過程から造られる漬物やチーズにも含まれているそうです。兎に角、SO2が駄目なら温泉卵も駄目で、通常の食品添加物の方がよっぽど体に悪い物が多いという事を、一般消費者は知って置く必要があるでしょう。それは消費者基本法第7条にて、「消費者は、自ら進んで、その消費生活に関して、必要な知識を修得し、及び必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めなければならない」と定められている通りです。

 確かに「SO2無添加」は「安全」ではありますが、必ずしも「美味しさ」を意味する用語ではありません。優良な生産者はこの表示が無くとも多かれ少なかれ有機を実践しており(※3)、逆にあからさまに「無添加」や「ビオ」を強調する、健康志向に便乗したワインは余り美味しくない事の方が多いです。これらはSO2を加える代わりに熱を加えて殺菌処理をする為、無残な風味を呈し易いのです(※4)。またSO2が無いワインは言わば賞味期限が短く、早期の内に、グラスに注いだまま一、二日放置したワインのえたような風味に為ります。酷いケースだと、開栓時には既に酸素や雑菌に侵されて劣化している事もあるそうです。「ではSO2添加技術が無かった頃は良質ワインが無かったのか?」と問われれば、答えは「否」。技術に頼り切っていない、より酸素の影響を受ける自然な造り方こそがワインの質を強化・向上させます。現在でも、葡萄が極めて健全で、pH値などが理想的で、限りなく慎重な醸造をした「無添加ワイン」は素晴らしく、例えばワイン造りの起源と言われているクヴェヴリワインは完全手造り、完全無添加(⇒旨味のオレンジワイン)、また元祖ニュージーランドのカルトワイン「プロヴィダンス」は、農薬・化学肥料一切無し、勿論亜硫酸無添加、更に天然酵母(※5)に無濾過という、銘柄通り「自然の摂理」から造られたような極上品です。しかしこれらは例外中の例外と言うべきでありましょう(無農薬や無添加といったものを手放しで褒める前に、どれだけ脚色が為されているかは存じませんが、「奇跡のリンゴ」という映画をご覧になってみて下さい〈病害との格闘やフカフカな土を食べる場面などは葡萄栽培に通じるものがあります〉)。亜硫酸は祖先の叡知。これからは見方を逆にして、「長期熟成が必要な高品質ワインにする目的でSO2を添加する」と捉えてみては如何でしょうか。そして人が先天的に有するアルコール分解酵素(アルデヒド脱水素酵素2ALDH2)が少ない日本人(※6)は少量しか飲めない分、良質なワインを飲もうとします。「少量」且つ「良質」、そんな私達がSO2に悩むなんて、折角の美味しいワインに無味乾燥な知識を持ち込むなんて、野暮な話だと思いませんか? 勿論「美味しさ」を求めず、思想や信念でワインを飲もうというのならば話は別ですがね。

 ※3 因みにアメリカ政府の有機ワイン定義は、1L当たり0.1gのSO2しか認めていず、これは0.35gまで許可される通常ワインとは相当な開きがある。そしてその上は「有機栽培葡萄からのワイン」と「亜硫酸無添加ワイン」が出て来る。ラベルから「亜硫酸含有」の文字を外すには0.01g/L以下だが、醸造過程で全くSO2を添加しなくとも、酵母が発酵中に副生成物として0.005~0.015g/L作り出し、結果SO2量はこれを上回る事になるため必ず表示される事になる。したがって「無添加ワイン」と言えどもSO2はゼロではない訳で、それはただ単に「人工的に添加していない」という意味に過ぎない

 ※4 本来ワインは熱処理をしない(濾過〈フィルターや遠心分離機〉により除菌・・する〈香味成分も除去され得るが〉、加熱は殺菌・・)。確かに熱処理をすれば劣化はしないが、その代わり熟成もしなくなり、風味の成長というワインの醍醐味が味わえなくなる(SO2無添加ワインについて、ワシントン州レッドマウンテンAVAに在るHedges Family Estateの醸造長Sarah Hedges Goedhart女史は「日焼け止めをしないで火傷するようなもの。女の子が素敵な女性に成長するのを止めるようなもの」と表現し、ジュラ地方のナチュラルワインの大御所ステファン・ティソ氏は「単一畑の細やかな テロワール 表現には、極微量のSO2が必要」と仰っています。又、「テロワールの個性が輝く瞬間をSO2によって写真の様に保存する」という言い方をする生産者もいるようです。余談ですが、ミサ用の赤ワインは「神が葡萄の内に成熟させ給いし通りのものたるべし〈1403年公布アルザス・リボーヴィレ条約〉」と言い、混ぜ物無しの天然物でなければならない規約があるのですが、当然長持ちしないうえ余り旨くない)。加熱技術方法は温度(高/中)と時間(長/中/短)により幾つかの分類があるが、いずれも熱による香味分子の破壊を引き起こす為、低級の早飲みワインにのみ使用される。この過程を「低温加熱殺菌法パスツーリゼーション」と言い、ビールや牛乳にも利用されており、日本酒で言う「火入れ」(参考⇒)と同じ作業である。この方法は1866年に微生物学の祖ルイ・パストゥールが発表した(この発酵性液体の保存法発見の背景には次の様な悲しい話が伝わっている。ヨーロッパでは19世紀迄は水を飲むくらいならシードルかビール、ピケット、ワインを飲む方が得策だった。それはカロリー補給のみならず、川や井戸の水が媒介する腸チフスといった伝染病から身を守った。そしてパストゥールはそれで十歳の娘を失った)が、実は日本ではその約三百年前の室町時代から同様の殺菌法が行われていた(というのは殆どの日本酒関連本が強調するところである)

 ※5 長年の農薬散布が自然酵母を殺してしまった結果、人工的な培養酵母が使われるようになった(酵母による風味の違いはコチラ⇒澱(フランス語 Lie リー)

 ※6 日本人の約四割は体質的にアルコールに弱い事が分かっている。これは遺伝子に由来し、鍛えれば飲めるというものではない。この世界にはアルコールに強い人種と弱い人種が存在し、前者はコーカソイドやネグロイドで、後者は日本人が属する新モンゴロイドである。しかしながらこの事は人種的に優れている事を意味せず、逆にアルコールの乱用に対する生理的な抑制効果が作用する為、欧米人に比べ日本人の方がアルコール依存症が少ない傾向にある

〈参考1〉SO2のワイン構造における働き

①有害微生物の殺菌、増殖阻止(腐敗、特に甘口ワインの残糖による再発酵防止。貴腐 ワインでは貴腐菌が葡萄の皮に開けた穴から酸化が進み、ワインが酸化傾向に為るためSO2によってフレッシュ感を戻す)

②ワイン醸造工程及び製品における酸化防止作用

③赤ワインの果醪かもろみにおいて、葡萄果皮からポリフェノール(色素その他)の抽出促進

④ワインの清澄効果

〈参考2〉SO2の使用量を必要最低限にする方法

①健全な葡萄の適切な熟成期における収穫

②醸造所までの運搬時間短縮もしくは冷却処理

③早急な破砕と圧搾

④果汁やワインのpHを低く保つ事

⑤醸造における適切な温度管理

⑥醸造環境の衛生管理

〈参考3〉Vin Nature「自然派ワイン」

 畑の土がふかふかで、化学肥料無しのため様々な雑草に覆われ、葡萄樹は雑草との生存競争に晒される。そして敗れる樹も多く、生産量は一般の半分以下。また自然の成り行きの醸造は時間も掛かる(高邁な理想主義者のため倒産し易い)。非自然派は魅惑的な香りを付ける培養酵母が使われ、香味が派手ではっきりするが、自然派は天然酵母に加えて好気的な醸造環境となる為、第2 アロマ の無い複雑な香りのまとまりで一つの香りに突出感無く、第一印象にも欠け、強さも控えめで捉え難い。またノンフィルターにより外観の美しい色、輝きも少なめだが、その分旨味を伴う。良く耳にする「ビオ臭」とは、パーマ液の様な還元臭で、味を固くし、粘膜を刺激し、頭痛の原因にも為り得る酸化防止剤をほとんど入れない為、極力空気に触れないように造る事から発生する。従来の物より自然により近い生物なまもの的ワインのため14℃以下で保存。2020年フランス当局(DGCCRF)は、主にロワール渓谷の自然派ワイン団体(SDVN)の働き掛けを受け、この曖昧な用語に対し Vin méthode Nature なる定義を制定。その概要は「①100%有機認証葡萄の手摘み ②天然酵母による発酵 ③濾過など、ワインに大きな変化を与える作業不可 ④添加物使用不可 ⑤SO2無添加、もしくは瓶詰め前に0.03g/L迄の添加 ⑥葡萄の人工的育種不可」というもので、今後「自然派」の造り手達がこの基準に沿ってワイン造りを行う事になると予想されている

〈参考4〉自然農法の種類

・ビオロジック:有機農法、オーガニック。無農薬、無化学肥料

・ビオディナミ:ビオロジックを基に、天体の動きなど生体エネルギーを取り込んだ農法

・リュットレゾネ:必要最小限の農薬を使用する、減農薬農法。ナチュラルワインとは別

・サステイナブル:環境保全型農法。畑のみならず森林などの自然環境を持続させる農法。産業を発展させ世界を豊かにし、未来永劫に亘り持続可能な社会や生活構造をも意味する。詰まり、主目的は子孫への遺産であり、品質の良さは副産物的な要素。畑は必ずしも有機農法とは限らず、リュットレゾネである事が多い。ナチュラルワインとは別

本日の箴言

 昔から続いてきたことは、理由はわからないことでも深い意味があると思う。たかだか四十年しか生きていない人間が、それは違う、と言えるのだろうか。

河合香織『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』

記念日の一本

Providence (Matakana, New Zealand)

 ニュージーランド北島マタカナにワイナリーを構える、NZ最高ワインの一つ。除草剤・化学肥料・殺虫剤は使わず、自然に還元可能な有機肥料により育てられた葡萄のみ使用。全て手摘み収穫で、そのタイミングは数値分析に頼り切らず葡萄を食した上での直感も。天然酵母による発酵で、亜硫酸無添加のリスクを補う為、発酵中は昼夜を問わず四時間毎に撹拌して雑菌の繁殖を抑制。無濾過のみならず自然の重力によって瓶詰め、無論酸化防止剤・保存料一切無し。一貫して自然に任せる姿勢を重んじる造り手。但し、確かにワインには亜硫酸は添加されていないが、ワイナリーの醸造器具や、樽から壁や床に飛び散ったワインなどを拭き取る時は全て亜硫酸を使っているという。これは詰まり亜硫酸の意義を熟知している事の証である。因みに2006年シラーには極めて少量のSO2を添加したという。そして理由は「亜硫酸を添加したらどうなるのか、試してみたかった」のだと。一般とは姿勢が逆ですな。結果、今迄と然程変わらなかった為、2007 ヴィンテージ 以降は相変わらず無添加のまま

シンデレラワインとは言え、お高くとまったどこぞのワイン達とは違いまだ何とか手に入れられる価格を維持。早めに買っとこうか知らん

第二十三瓶 ワインと健康(白ワイン編)

 古代ギリシアの医聖ヒポクラテスは「薬の中でワインは最も有益であり、薬効を持つ溶剤として用いられ、傷薬にもなる。赤ワインは成長に役に立つ。白ワインは肥満防止に良く、利尿効果が最も高い」とちゃんと白の効用について触れているものの、現在の海外の記事にざっと目を通すと赤ワインについての効用ばかりが矢鱈やたらと多く、そしてほぼほぼ結論は適度のアルコール摂取〈大凡おおよそ1日当たり男性2杯、女性1杯。詳細はコチラのをご覧下さい⇒Lower alcohol wines (and spirits)〉で落ち着きます(※1)

 では次は私が見付けた限りの白ワインの効用を列挙してみます──

・ポリフェノール量は赤の10分の1程度だが、赤のよりも抗酸化機能が高く、加えて分子構造が小さいため体内吸収され易い(甲州は含有量多め)

・美肌効果(甲州はコラーゲンを修復するアミノ酸のプロリンを多く含む)

・有機酸(葡萄由来:酒石酸・リンゴ酸・クエン酸、発酵由来:コハク酸・乳酸・酢酸)による殺菌作用がある為、食中毒の原因菌(サルモネラ菌、大腸菌、赤痢菌等)に速効性がある(シャブリに生牡蠣が有名)

・有機酸が食欲増進効果を生む

・有機酸が腸内環境を整える(便通改善効果)

・血圧低下作用(白には ミネラル〈カリウム、カルシウム、マグネシウム〉が多く含まれている為、利尿作用が高まり新陳代謝が促されて体内のナトリウム〈塩分〉が排出される。同時に鉄分やビタミン類も含む)

・血小板凝集抑制機能

・冠状動脈性心臓病対策

 ──確かに赤ワインより情報は少ないものの、かなり健康には良さそうです。印象としては、赤の方がより医学上の重病に効果があり、白はより生活上の軽症を改善するのに期待出来そうであります(日本人の、低脂肪で米と魚〈※2〉中心の、伝統的かつ健康的な食習慣に赤ワインの出番は少ない為、和食にも合い易い白ワインの効用に触れるのは日本人が多いのではないかと愚考します)。ついでに泡は高級に為るほど瓶内熟成〈⇒瓶内二次発酵〉によるアミノ酸が多く為るため健康効果は高いとの事です(加えてワインは醸造酒の中でも糖質が少なく、100g当り赤は1,5g、白は2,0g、日本酒は3,6~4,9g、ビールは3,1~4,9g)。いずれにしましても、ワインは在らゆる酒類の中で、圧倒的にアンチエイジングな酒である事に疑問の余地は無さそうです。だからこそ「良い物を多量に」という人の心情が働き、ついつい適量を越えて飲酒してしまう為、冒頭で述べた「適度のアルコール摂取」が結論として導かれるのでありましょう。「エルペノル症候群(※3)」による、翌日仕事が出来ない程の宿酔による経済的損失額は年間1600億ドルに上るとアメリカ政府は算出したそうで、確かに飲み過ぎを警告する義務がお偉方にはあるでしょう。一方これはより身近な、一般消費者の心にグサリと刺さる警告ですが、過度のアルコール摂取は肌から水分やビタミン、又マグネシウム等のミネラルを失わせます。その理由は、これらの栄養素はアルコールの分解と共に代謝されて一緒に排泄(※4)されてしまうからです(とは言え、既に身を以てご存知の方もおられるでしょうが、肌の回復は比較的早く、数日の断酒で大分良くなります)。この様に述べられると、如何にも「アルコール=不健康」という概念が植え付けられそうです。そして「アルコール=太る」という思い込みも方々で耳にします。私達は精神的にくつろいでいる時に食欲が進み、緊張している時に低下します。詰まりアルコールは緊張をほぐすため私達は食欲が出て来る訳で、それに伴う食べ過ぎが主な肥満の原因なのです。勿論アルコールを摂り過ぎれば、体内に溜まったアセトアルデヒドが脂肪に変わり肥満のみならず動脈硬化の原因と為ります。確かにアルコールは1gにつき7kcalあるものの、実はアルコールのカロリーは「エンプティ・カロリー」と言って、直ぐに熱として放出されるものなのです。言い換えれば、新陳代謝が激しく為り燃料として燃える為、飲んだからといってそれをカロリーの計算に入れる必要はないという意見もあるのです。更には、栄養学においては休肝日は必ずしも必要ではないとも言われています。それは、毎日ある一定の量のアルコールが入って来て、それを酵素によって処理する事が或る日抜けてしまうと、それに対応する相手が居なくなりかえって負担を掛けるからだそうです。こうなって来るとまたしても、赤ワイン編でも述べましたように、何を信じたら良いのか分からなくなって来ます。しかしヘリオドロスが『エティオピア物語』にて言ったように、結局「魂は己の欲するところを信じたがるもの」。であれば私達は其々自分が信じたいものを信じる事に致しましょう。

 ※1 アルコールの害は心臓、脳卒中、脂肪肝疾患、肝臓痛、精神健康異常、がんすい炎等。赤ワインで取り沙汰されるリスベラトロールの効果も飽く迄マウス投与実験による結果で、人間が同じ効果を得るには毎晩8~10本の赤ワインを飲まなければならないとかで、定めし本末を誤った大惨事が引き起こされる事でしょう。因みに、どの国でも男性に比べて女性の飲酒頻度と量が低いのは、女性の方が体重が少なく脂肪組織の割合が多い為、男性よりも少ないアルコール摂取量で肝障害を起こす為であると、生理学的には説明される。無論、女性は歴史上長く家庭に縛られて来た為、社会的行為である飲酒から遠ざかっていた事も考慮すべきである

 ※2 海水中で暮らす魚の脂は冷水の中でもトロトロで、当然人体の中でも固まらない。対し牛・豚・鶏の体温は38,5~41,5℃と人よりも高い為、動物の脂が人体に入るとベタっと固まる。このベタ付きが血液をドロドロにするのである(目に見える一例は、レバーパテを冷蔵保存すると生じる白い脂肪の固まり。ちなみに豚の脂の融点は33~46℃で、牛の40~50℃よりも低めの為、噛むほどに 旨味 を強く感じられます。加えて硬化油マーガリンのトランス脂肪酸による心臓疾患のリスクも心に留めて置きたいところです)

 ※3 解離性障害(自分が自分でない感覚、カプセル内に居るような現実味の無い感覚)さえ引き起こす程の重度の二日酔い。ホメロスの『オデュッセイア』で、魔女キルケの島から出発する前夜に泥酔し、館の屋根で眠り込み、翌朝二日酔いの為に転落死した船乗りの名から。因みにその後日譚ですが、皆はエルペノルがいない事に気付かず旅立ち、その後冥界で再会したオデュッセウスは彼から自分の遺体を無名戦士の墓に埋葬するよう頼まれます。彼は己れの死に様を恥じていたのです(そりゃそうだよネ)

 ※4 アルコールによる尿意の原因は次の通り。抗利尿ホルモンのバソプレシンの働きがアルコールによって抑制された結果、肝臓の基礎構造である尿細管の壁がスポンジ状からざる状に為り、液体はどんどん膀胱へ流れて尿と為る

 現代人は飲食から健康問題を気にする事が出来るほど豊かな生活を送っており、そんな日々に私達は感謝しなければならないのでしょう。しかしこの二稿に亘る煩雑極まりない事を一つ一つ気にしながらワインを飲んで何が楽しいのでしょう? きっと私達は「美味しい上に健康に良い」という有り難みに満足したいだけなのではないでしょうか。何でも、酸化防止剤SO2が添加されないと、ポリフェノール量が通常の赤ワインの六分の一程度に減少するという話まであります。これは果物や野菜を五つから九つ食べる事で摂取できる量に比べても遙かに少ないのだとか。またアルコール消費量の増加が早死にに繋がるのなら、日常のストレスも同じく寿命を縮め、そしてアルコールが唯一のストレス解消法という人達は一体どうなってしまうのでしょう? さて結論です。改めて「ワインと健康」について考察してみた結果、矢っ張り私は前回冒頭で述べた所に舞い戻って参りました。──「健康第一ならば青汁だ!」

本日の箴言

 本来、健康のことを気にして飲むのではなく、楽しく飲むことが健康に最もよいのではないのでしょうか。

田崎真也『ワイン生活』(改訂)

同氏のおススメ映像集はコチラ⇒お役立ちワイン映像集

休肝日の一本

Purpom, Rosé Sparkling Apple(果汁100%中ルージュデリース種30%使用、ノルマンディー、フランス)

 鮮やかなサーモン色の色合いで活気のある泡立ち。爽やかだがしっかりとした香りは赤林檎、アセロラ、ほんのりスモモの香りも感じられる

 中辛口、高めの酸度、ミディアム(-)ボディ。甘さが控えめで飲み疲れる事も無く、酸味に不慣れな人は「酸っぱい」と言いそうなほど十分な酸度がある為、料理ともバッティングしない。5~8℃にしっかり冷やし、フルートグラスに注いで飲めば、ロゼスパークリングワインを飲んでいるかような擬似プラシーボ効果を得られる。鮭の塩焼き(酸が塩味を和らげ、魚の脂身の甘味を直線的に引き伸ばす)、鱒の押し寿司(酢飯と同調)、またデザートではバター菓子(酸が菓子の味わいの輪郭を生む)やココナッツ菓子(ミルク感が生まれる)と良く合う。ソフトドリンクで料理との相性を考える切っ掛けをくれた、フードフレンドリーで素敵な炭酸ジュース

赤い果肉のルージュデリース
omoroid.blog103.fc2.com

第二十二瓶 ワインと健康(赤ワイン編)

 前稿(低アルコールワイン)にて少し触れました健康について、今回は掘り下げてみます。正直なところ、このテーマを記事にする積もりはありませんでした。何故なら「健康第一ならば青汁だ!」が持論ですし、ワインは嗜好品であって医薬品ではないのですから、楽しむ為でなく健康の為にワインを摂取される方がこの「楽会」へお越し下さる事は無いかと思いましたので。しかしここ五年ほど健康にまつわる情報を収集しておりませんでした為、目紛めまぐるしい科学技術の進歩と共に真新しい研究結果が発表されているかも知れないと思い、再調査してみました。

 酵母による発酵のメカニズムを解明した、19世紀フランスの自然科学者ルイ・パストゥールは「ワインは人間の飲み物の中で、最良の、最も健康的なもの」という言葉を残していますが、当時の人々は我々現代人ほど健康志向をお持ちではなかったようであります(恐らく健康よりも生存の方が重要問題であったのでしょう)。ワインが健康と結び付けられた事の発端は、1991年11月17日の夜中、アメリカCBSの「60 MINUTES」という人気ニュース番組でした。其処で赤ワインの健康効果が取り上げられたのですが、それが全米二千万の視聴者の常識を見事に引っ繰り返すものだったのです。元々アメリカは禁欲的なピューリタンによって築かれた国家で、自己否定に喜びを見出すピューリタン信仰が無くなった後も、舞踊・飲酒・観劇・小説さえ禁止もしくは制限される厳格なこの宗教に影響されて来ました。よってアメリカ人の心には快楽の為の快楽は自粛すべきという認識があり、それが1920年1月16日に施行されたアメリカ合衆国憲法修正第18条、所謂いわゆる「禁酒法(※1)」に繋がる訳です。そしてこの1933年迄の十三年間に及ぶアメリカ最大の悪法を経験して「禁酒は美徳」という意識が残る人々を、このニュースが仰天させたのです。先ず最初に、アメリカにおける死亡理由の最たるものが動脈硬化に由来する狭心症や心筋梗塞などの「循環器系疾患」であり、アメリカ人の二人に一人がこの為に亡くなり、四人に一人がこの疾患を患っている事が知らされます(この時視聴者は途轍とてつもない不安と恐怖に身を震わせています)。しかしその直後、赤ワインに含まれる「或る物質」がこれに対して有効だという知らせが高らかな口調で伝えられます。(この時視聴者の眼前に広がる闇の中に一条の光明が差し込みます。しかしオアズケ、此処でコマーシャルが入り)その後、一方で肉やバター等の動物性脂肪を多量に摂取する上に喫煙率も高いフランス人だけは、欧米人の中でも例外的にこの疾患が少ないという情報が、専門家の口から説得力豊かに語られます(因みにこの矛盾が、フランスのルノー博士等が研究した「フレンチ・パラドックス」。まだまだオアズケ、それ以外にも色々とウンチクが語られた後、やっと)実はこれは赤ワイン中の「ポリフェノール」が血管を綺麗にし、動脈硬化を防ぐからだ、と物々しく報道されるのです(そして翌日、あれ程売れ残っていた赤ワインが店内から忽然と消え去った…)(スミマセン、話の流れは日本TV番組風に半分私が脚色しました、が最後は事実のようです。その目と耳でご確認を⇒CBS:The French Paradox〈13:17〉https://youtu.be/UHbGOtF0LEw〈特に興味深いのが9:43~10:21、学校給食からミルクを廃止して水で薄めたワインを出そうという意見。登場するルノー博士は「5,6歳でミルクを止め、10か12歳で大量の水に薄めた少量のワインを食事時に飲み始めた」と仰っています。なお博士は2012年10月28日、メドックの小さな村にて85歳の生涯を閉じられました。心よりご冥福をお祈り申し上げます〉)

 この活性酸素を撃退する抗酸化物質ポリフェノール、これは植物が光合成によって生成する色素や苦味成分で、大凡おおよそ葡萄の種子に50~70%、果皮に25~50%、果汁・パルプに2~5%含まれているのですが、赤ワインにおいては果皮の色素の元である「アントシアニン」、或いは「フラボノイド」、そしてがん等に有効である「リスベラトロール(※2)」があり、一方種子からはご存知「タンニン」「カテキン」「ケルセチン」「プロアントシアニジン」、また果汁・パルプには「カフタリック酸」「クータリック酸」「ガリック酸」等があります(山梨大学ワイン科学研究センター佐藤充克特任教授の調査より)。漬け込みマセラシオン工程がある赤は白ワインの十倍ほど多く、また赤でも皮が厚く、色素量や 渋み の有るワイン(※3)の方が多いと言われます。その一方で、葡萄で言うと、黒葡萄よりも白葡萄の方が果皮に多く含有されている為、赤ワインよりも確りとスキンコンタクトをした白ワインの方がポリフェノール量が多いという事になります。とは言うものの、ポリフェノールだけを求めるのであれば、チョコレートや葡萄ジュースで沢山です。

 ※1 酒類の販売・製造・運搬は禁じられたが、購入・飲用・所有は自由であった為、路上で泥酔しても「施行前に買った」とでも言えばお咎め無し(かえって飲酒事故が増えたとか)。宗教や医療目的の製造は容認されたため一部のワイナリーは生き残ったが八割が閉鎖し、アメリカのワイン産業は壊滅(自家醸造ワインを飲むのは許されたため家庭ワイン造りが盛んになり、逆にワイン消費量は倍増した。が、ヒドイ味だったのは言うまでもない)。ナパの高級ワイン造りは一世紀以上遅れたとも(逆にこの深刻な状況が業界を動かし、特にナパやソノマでヨーロッパの醸造技術の頂点に達する進歩を遂げたとも。いつの時代も逆境が人を進歩させるのです)。「酒場=悪の巣窟」「アル中=社会のくず」とされ、「酒=悪」という概念が跋扈ばっこ(当時のアルコール法律管轄機関はBATF=Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms、即ちアルコールとタバコは銃火器と同じくらい危険で厳しく管理されねばならぬと考えられた、という事。尚2003年1月からはTTB=Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureauの管理下にある。何れにせよ、健康を脅かす物に対しては国家干渉は必至)。しかしこの本質を根底から変えたのが、モンダヴィ(参考⇒ワインと音楽のペアリング)達が推奨した「フードワイン」、即ち「ワインは食事の一部」という考えであった(「食事=悪」と断言する人は居ませんよね。但しこれは飲む為の理由付けで、ペアリングの概念〈⇒五味と五感から知る! ワインと料理のペアリング法〉とは異質)。これで食事と一緒にワインを数杯・・飲んでも快楽であるという罪悪感は持たなくて済むようになった。因みに禁酒法終焉時には「また幸せな日々がやってきた」と歌われたのだとか(ヤッパリみんな飲みたいのだ! 映画『アンタッチャブル』でもそれを推測させるシーンが幾つかありましたネ)

〈追記〉鎌倉幕府(1185~1333)は既にこの禁酒法と同様の政策「沽酒之禁こしゅのきん」を建長四(1252)年に打ち出し、酒の売買を禁じていた。それは新興階級として登場した武家の制度の根底に、過差の禁止、勤倹・礼節の厳守が法制化されていた為、酒(と女)は抑制力を弱め、節度・礼節を乱し、また武家を困窮に陥れる恐れのあるものとして忌避された為であるという(他には、酒屋が金貸し業も兼ねるように為り商人の力が強く為る事を恐れた為とか、建保元〈1213〉年の和田合戦で飲酒によって油断した北条方が苦戦を強いられた為という説も)。実は日本という国では古代から幾度となくこうした禁酒令が出され、初出は更に遡り大化の改新が始まった大化元(645)年、凶作により農村が荒廃した為、「早々に田作りに務め、美食をしたり、酒を飲むべからず」と農産物節約の趣旨に促されて布告された

 ※2 単体のサプリメントは効果無く、逆に酸化ストレスを高める(体の錆、加齢臭:エイジング↔赤ん坊の 匂い)。様々なポリフェノールがミックスされて酸化ストレスが下がりアンチエイジングに繋がる

 ※3 カベルネ・ソーヴィニョンとバローロ(ネッビオーロ)が多いという研究結果があるが、一体誰が健康の為にバローロを飲むだろう? 大雑把に見積もっても、安めのバローロ1本で高めの青汁を30杯は飲めるだろう。因みにイギリス誌『ネイチャー』によると最も期待出来るのが「オリゴメリック・プロシアニジン」を最も多く含むタナ種(フランス南西地方「マディラン」が代表ワイン)。加えて、同一銘柄なら古い ヴィンテージ の方が効果が高い

 これ以上わずらわしい説明は止め、一般消費者が知りたいのは結果のみ。という事で、此処で人体への健康効果を列挙してみます──

・認知症予防、認知機能改善(脳細胞を刺激、再生し、老人の記憶力を再び高める)

・ダイエットやストレス減(軽い運動によって得られる効果)

うつ病対策

・寿命延長(若返り効果はルイ15世の時代には知られており、ポンパドゥール夫人など上流社会の女性達を魅了したという)

・メタボリックシンドローム改善(脂質調節作用)

・高血圧対策(血圧を下げる)

・高コレステロール対策

・加齢による失明予防

・抗癌作用(乳、肺、前立腺)

・骨密度向上

・抗炎症作用

・神経障害対策

・脳卒中リスク減

・循環器系疾患(狭心症、心筋梗塞等)予防

・アテローム性動脈硬化症対策

・2型糖尿病リスク減

・肝疾患対策(まずはアルコール止めなさいって)・・・などなど

 ──予想に反して煩わしい結果になりそうなので此処で止めておきます。一度ひとたび検索すググると大抵の知識は得られる利点があるものの、反面アレコレ情報が交錯し「これは本当なのか、でなければ一体どれを信じるべきなのか?」と、何が何だか良く分からない状態になる、これが現代の情報化社会における最大の欠点であります。正直私ももう煩わしさを隠せませんので「免疫システムの向上」、この一言で済ませても宜しいでしょうか?

本日の箴言

 あらゆるアルコール飲料の中で・・・ワインこそ、身体をリラックスさせる作用からいっても、栄養の面からいっても、間違いなく最も完全な飲み物である。

フランス・ブドウ農業組合(1910年)

平日の一本

Madiran 2004 (Patrimoine & Terroir, Tannat, Cabernet Sauvignon and Cabernet Franc)

 ミディアムガーネット、黒系ベリー(ブラックベリー、黒プラム、カシス)、ジャミーなドライプラム、薔薇、黒胡椒、樽(ヴァニラ、クローヴ、トースト)、そして第3 アロマ(獣、革、湿った葉、土)

 ミディアムレベルの酸、やや粗めだが不快ではない強いタンニンと14%の強いアルコールが厚めのボディを形成する。余韻は中程度。熟成由来の特徴が良く現れ、酸と果実味がミディアムレベルでバランスを取っている。しかしアルコールがその果実味を圧倒する程に強い。また粗めの 渋み がアフターテイストに幾らか苦味を生む。16~20℃、大振りの瓜実型 グラス で、ローストチキンやハンバーグの様な柔らかめの肉料理と楽しみたい

格安蔵出し熟成ワイン:タナ+長熟→赤の中で最も健康効果あるハズ(確かに翌日肌のツヤが良くなったような…)

The 21st Bottle : Lower alcohol wines (and spirits)

Last time, we ended with “Art is to make a thorough investigation of formal characters”. So is wine. Previously referred to five flavours in this site, these five form taste of wine. As I rewrite my sentences in my book or this site, are components in wine changed? It depends on the circumstances, the wine law of each country/region and of course, each producer’s philosophy. There are some treatments such as enrichment (chaptalisation: a method to increase alcohol by adding sugar) and acidification/de-acidification. For example, California wines tend to have higher alcohol, which is likely to make wine thick and degrade finesse, although good wines have a balance for us to drink comfortably.(Because their pH is lower and they keep acids, they are fresher in spite of their higher alcohol.) In a wine making process, however, to decrease the level of sugar producers even add water to must (base wine) in an extreme condition. Clark Robert Smith, a winemaker/owner in California, said that 45% of Californian highly-priced wines are removed alcohol using spinning corn column or reverse osmosis.[1] On the other hand, in Bordeaux and Burgundy, some producers who can afford plant investment use entropy evaporation[2] to concentrate must. Now we can say winemakers make a thorough investigation of formal characters, too. The article of this time will cover more artificial wines, i.e. lower alcohol wines.

[1] According to Wikipedia, the use of technologies such as spinning cone column or reverse osmosis was banned in the EU until recently, although they could freely be used in wines imported from certain New World such as Australia and the US. More recently, in OIV recommended winemaking procedures were modified to permit use of spinning cone column and reverse osmosis, subject to a 20% limitation on the adjustment. Some studies show that alcohol can mask flavours of wine, so alcohol removal techniques will be more necessary as global warming progresses. Some of producers in Bordeaux have already taken these methods. (Of course, they can take other measures against global warming, such as early/night harvesting, planting vines at a high altitude and canopy management. 〈Canopy management is the arrangement to control the sunlight that gets into the canopy. In cool regions the grapes need sunlight to ripen, so an open canopy will be adopted. On the other hand, in warm regions the grapes need some shade by leaves to keep good acidity, so a closed canopy will be adopted.〉)

cf. Dr. John Forrest of Marlborough in New Zealand is making low alcohol wines more naturally. Sugars in grapes that are fermented into alcohol come from the photosynthesis that results from sunlight on vine leaves. So he cuts off leaves during the ripening process and makes lower alcohol wines with natural flavours.

[2] Water that evaporates at 100 ℃ is evaporated at 20℃ under vacuum. Use this, vacuum the tank and warm the must to about 25 ℃ to evaporate only the water. Almost no damage to the wine as it is below the fermentation temperature of normal red wine.

1. Introduction


Our tastes have changed. Not long ago, people longed for heavy wines with intense oak flavours and high alcohol, and it is still easy to find that kind of wines in New World. Now, because the spread of the Internet has reduced the need for people to use their bodies, the world tends to focus on health. Healthy foods mean lighter calories and lighter foods go well with lighter wines. Both alcohol and residual sugar contain calories, and alcohol has more calories than sugar. There may be people who claim lower alcohol wines lack body and strength. But some of the greatest wines are low in alcohol, such as Hunter Valley Semillon, Portuguese Vinho Verde and German Riesling. It seems full-bodied wines are no longer fashionable. There is a movement for lower alcohol drinks in the world.

2. Definition of lower alcohol drinks

First, we need to know a definition of lower alcohol drinks (in UK here. The definition may vary from country to country).

・Low Alcohol: Drinks with between 0.5% and 1.2% ABV
・De-alcoholised: Drinks with less than 0.5% ABV
・Alcohol Free: Drinks with less than 0.05% ABV
・Non-alcoholic: Drinks without alcohol

An alcohol free and non-alcoholic drink may take the form of a non-alcoholic mixed drink (a ‘virgin drink’), non-alcoholic beer (‘near beer’) and ‘mocktails’ (the shortened name of ‘mock cocktails’). Mocktails are non-alcoholic festive blend drinks of fruit juices, syrups, cream, herbs and spices. In this connection, ‘reduced alcohol’ means drinks with 5.5% ABV.

3. How to make lower alcohol wines

To make lower alcohol wines, two methods are mainly used: vacuum distillation or reverse osmosis. In addition to them, spinning cone column is also used but it is much more expensive. (It is a form of low temperature vacuum distillation to gently extract volatile components from liquid. See pictures below.) These processes start with real wine and end with little or no alcohol wine by reducing alcohol. Also, there are other methods which control alcohol production instead of reduction, i.e. reducing sugar, stopping fermentation and fermentation using yeasts which produce less alcohol. Some say that wines made by these methods tend to have more grapey flavours than two main methods, but unlike grape juices they have wine-like acidity and body. In fact, lower alcohol wines differ from grape juices. While grape juice is the unfermented juice, lower alcohol wine goes through the same fermentation and ageing process as regular wine, only to have the alcohol removed at the last stages. This makes lower alcohol wine much less sugary than grape juice (because yeasts eat the sugar), but with the similar flavours to regular wine.

Reverse Osmosis (winesecrets.com)


Spinning cone column (The Drinks Business)
Spinning cone column (ConeTech)

4. Taste of lower alcohol wines

Surely, the taste of lower alcohol wines is the big problem. Maybe it is because our palates are used to regular wines, but lower alcohol wines tend to lose floral aromas or tannins due to the production methods using heat or membrane. Besides, alcohol brings some sweetness, body and texture. But things have changed. The increase in demand for lower alcohol drinks has encouraged producers to find ways to make better taste. The technology is improving every year, and some of them are now very drinkable. For example, Spanish producer Torres has pioneered lower alcohol wines, and its Natureo wines are very good and now have 0.0% alcohol. Australian producer Rawson’s Retreat makes pleasantly fruity wines with 0.5% alcohol. When it comes to spirits, Gordon’s has created Ultra Low Alcohol gin and tonic. Ketel One Vodka produces low-abv Botanical range and Seedlip offers sophisticated non-alcoholic spirits. The increase in demand for complex, more challenging options means the lower alcohol drinks category is one of the most exciting trends and biggest opportunities in the present drinks industry.

5. Alcoholic harm to health

The quality of lower alcohol drinks is improving now, but drinking too much will come to nothing. According to UK Chief Medical Officers’ low risk drinking guidelines, it is the safest not to drink more than 14 units a week. (1 unit is 10mL or 8g of pure alcohol, 76mL of 13% wine, 25mL of 40% whiskey, 250mL of 4% beer.) Reducing the number of units helps to avoid the risk of some serious illnesses such as cancer, liver and heart disease and high blood pressure. Also, it benefits the health: deeper sleep, more energy, better concentration, better skin and slimmer waistline. Furthermore, we can save more money. (Tax breaks for low alcohol.)

6. Outlook for lower alcohol drinks

From the facts above, lower alcohol drinks will become more popular. They are no longer negative drinks only for drivers and expecting mothers. There are even alcohol-free bars, also known as dry bars. (These days, young people tend not to drink alcohol. I think the cause is, especially in Japan, the increase of young people spending time playing alone at home, that is the diversification of amusements and the individualization of society, a kind of individualism.) Heineken has promoted non-alcoholic beer in restaurants. (Non-alcoholic drinks have no tax, so makers can make the higher proportion of profit.) In countries where alcohol is illegal, non-alcoholic drinks are permitted. So, the promotion can be done in those countries, too. (The rate of the increase in Islam and Hindu population is higher than the world average.) In Japan, lower alcohol drinks are accepted enough to occupy a corner in liquor shops. And we can use them as a gift for those who are weak in alcohol or in celebration of an achievement in the place of work. We can recommend them to those who cannot take alcohol because of disease or those who have a party with kids. This is the time when it is important to cope well with stresses and strains. Lower alcohol drink is now one of positive choices in drinking.

Today’s maxim

The producer’s job is not to leave it to nature, but to actively approach grapes and wine and lead them to his own ideal wine style.

Kawai Kaori ’USUKE BOYS, Japanese wine’s revolutionists’

Weekday wine

Le Petit Chavin Rosé Sparkling (Alcohol Free, Made with spinning cone column)

Appearance is medium salmon. Flossy but nicely vigourous bubbles. Medium(+) intensity aromas of strawberry candy, muscat grape and crushed raspberry. Also floral such as honeysuckle. Off-dry, medium acidity, smooth low tannin, medium body in spite of alcohol free. Medium flavour intensity of grapey character. Finish is short but longer than any other alcohol free sparklers I’ve ever had. Besides, acidity lasts to its finish. Tannins support its body and make it more drinkable or bring satisfying quality of a drink. Goes well with strawberry-flavoured cheese.

Technical Sheet⇒(https://petit-chavin.com/en/wines/petit-chavin-sparkling-rose)