諸白

 糀米、酛米、掛米に良い白米を選び十分に精白し(厳密には糀米と掛米に白米を使うのが諸白で、更に酛米にも白米を使うのを三白さんぱくと言うらしい)、良く洗い糠を除き、汲水くみみずを詰めて(※)寒季に造られ、雑味が少なくアルコール含有率の高い冬酒の事。対し片白(諸白同様の良い米を精白するが、汲水の多い、水の延びた薄口造りの酒)は新酒や寒前酒かんまえざけなど秋口に主に造られた。

 ※「汲水を詰める」:酒造において加える水の量を減らす→得られる酒量は減るが濃厚な醪に為る↔「汲水を延ばす」:酒造において加える水の量を増やす→寒前から寒中にかけて発酵を促進させる(暖かく為る春には逆に減らす事で発酵を調整する)

 江戸時代において最高の酒造技術書とされた『童蒙酒造記どうもうしゅぞうき』によると、江戸積みする商品としての酒は主に諸白だった。諸白は汲水が詰まっているため発酵が徹底せず糖分が残って濃醇だったので、柱焼酎を加えて辛口としていた(アルコール添加の走り。風味がしゃんとし日持ちも向上。「延びのきく諸白」「浜洒ぴんしゃんとしたる辛口」という表現も)。故に伊丹流の酒は「濃醇辛口」の「丹醸たんじょう」と評された。

和漢三才図会わかんさんさいずえ』では、諸白は濃醇な酒、片白は薄口の酒と定義すると同時に、米の精白度に拠っていた。一方、酒造史研究書の中にはその二酒の定義を米の精白度のみに着目したものが多い。即ち、諸白が糀米・酛米・掛米の何れにも精白した米を使用、片白が酛米・掛米に精白米を使い、糀米には不十分な精白米ないし玄米を使用するという説は、諸白が創始された、一般的には人力で精米するしかなかった安土桃山時代には妥当だったが、江戸時代には誤りである。即ち元禄期においては、商品の酒では酛米・掛米に加え糀米を精白するのは一般化していて、諸白と片白の差別化は汲水に移っていた。要するに、汲水を詰めて造られた濃厚な酒が諸白、対し水を延ばすため湧き過ぎ易い事から蒸米を冷まして造った薄口の酒が片白であった。その後19世紀中頃には「淡麗辛口」の清酒を諸白、それ以外の劣った酒、或いは濁り酒を片白と呼ぶように為って行ったという。