第五瓶 続・ワインの味わい方 -葡萄酒との対話-

人の五感と五味の分析(味覚)

 続きましては味覚です。先ずは味わい、いては美味しさというものの全体像を捉えて頂きたいと思います。次のリンクをご覧下さい。⇒ 味わいの分析図

 元々フランスの伝統料理は四味で構成されておりましたが、日本食文化の栄光とも呼ぶべき、天然食材に含まれる「旨味」が其処に加わる事によって、食という学問に一層の幅が増したのであります。日本人ほど五味に敏感な人種は居ないと言われています(※)。そして我々の旨味文化と食感文化(擬音・擬態語の多様性)、即ち食材が持つ自然の儘の個性を尊重する食文化、「無味」や「淡」を尊ぶ心を、ようやく世界が理解し始めているのはご存知の通りです(イギリスのスーパーマーケットでは醤油や味醂だけでなく紫蘇や柚子といった日本の食材が買えるように為り、フランスのミシュラン3ツ星レストランでも醤油や味噌、山葵わさびなどは普通に使われる調味料と為りました)。

 ※ 色盲がある様に味盲もあり、西洋人は男性の30%、女性の25%もがそれであると言われる。一方、東洋人は13%と言われ、香味の感受性はより鋭いとされる。但しこれは人種が高等であるという事ではなく、むしろ動物に近いと見做みなされるかも知れない。なお当サイト管理者は人間的な思考よりも動物的な感覚を重んじる者の一人です(我々が人間であるよりも長く動物であった事は、厳然として動かしようのない事実ですからネ)。なお味盲といっても五味の全てが分からないのではなく、特に苦味に鈍感である。因みに、苦味を賞味出来るのは全生物の内で人間だけである

 ではその五つの味を捉える器官に目を向けましょう。

sites.google.comより加筆

 上の図の通り、味蕾が溝に溜まった液に溶け込んだ味覚物質を感知するのです。「味の感覚は一つの化学作用で、昔の術語で言うと湿法によってなされる。言い換えれば有味分子はまず何かの液体に溶解しなければ、乳頭とか吸盤とかいう味覚器官の内部に敷き詰められている神経毛の先から吸い取られないという事である・・・本当に、我々の口を不可溶物の細かい欠片かけらで一杯にしても、舌は触覚を感じるだけで味覚は感じないのである」とはブリア・サヴァラン氏の言葉です(例えば、ビニール袋やプラスチックを口に入れても味がしないのは溶解しない為)。因みに溝にはエブネル腺から出される分泌液により、溝の中身は洗い流され、味覚物質が留まり続けないようになっています。ところで、此処で注目して置きたいのは、舌の後方から奥にかけて味蕾が多い、即ち前方より後方の方が味に敏感、もっと言うと我々は舌の奥側で味を十分に感じているという事です。

 そして味蕾です。

mikakukyokai.netより加筆

 味蕾の数は成人で平均245個と言われており、これら味蕾細胞は2~3週間で生まれ変わるのだとか。しかしながら70~80歳に為ると88個まで減少し、この数だと味覚異常と診断されるようです(嗅覚とは異なり味覚はほとんど衰えないという説もあるようですが、それでも男性の苦味の感受性は徐々に弱まり、女性のそれは閉経と共に一気に落ちると言われています。因みに湯川酒造の湯川尚子女史は次の様に仰っています。「私が思うに女性が生理の時っていつも以上に苦味を感じ易い」)。どちらにせよ、味覚には個人差があり、自分の感じ易いポイントを見付ける事が奨励されます。人の味覚は全く同じではないのですから、嗜好するワインも同じではない訳で、そういった自由さの中にこそ、恋愛の自由さと同じで、面白さが在るのだと思います(「三千人と恋愛した人が一人と恋愛した人に比べ、より多くについて知っている」と言えないのは人生の面白味ですが、「三千本のワインを飲んだ人が一本のワインを飲んだ人に比べ、より多くについて知っている」と言えない事は絶対にあり得ませんが…)

 此処で、お気付きの方もおられるでしょう。「肝心の旨味は何処が感じ易いの?」と。これは飽くまで個人的な体験で、私の舌が狂っていないならばの話ですが、旨味は舌の中央で感じます、というより残る感じです。生のトマトや昆布を食べた時に、いっそ味の素を舐めて頂ければお分かりになると思います。

 では此処で鏡に向かって舌を出して見ましょう。ぷつぷつした乳頭は幾つくらい御座いますか? 直径1cm大の円を舌先に見て、その中に15個未満(10~25%の方)であれば味覚に鈍感、ではなく、苦い物が平気で非常に強い味のワインも楽しめるでしょう。15~30個(50~75%の方)であれば一般的な味覚で、ほどんど全てのワインを楽しめます。では31個以上(10~25%の方)はと申しますと、非常に敏感で、塩化ナトリウムをより塩辛く、クエン酸をより酸っぱく、エタノールに甘味はそれほど感じず、苦味を強く感じる、という具合です。したがって飲酒量は少なめで、より繊細なワインを楽しむ傾向にあると言います。見方を変えれば、他人より五味やアルコールを強く感じるのでワインを十分に楽しめないかも分かりません。しかし嘆く勿れ、実はあなたこそ Super Taster超味覚者です! 何故なら少量口に含んだだけで、味わいのバランスが分かってしまうのですから。そしてこの比率は女性の方が男性の2倍以上多いと言われています(アメリカでの研究によると、言わばこの「味覚過敏」は女性で35%、男性で15%がこれに当たるという)。抑々そもそも、大昔より続く人間生活の営みの中、毒か否かを見極める進行過程で、女性の方が乳頭の数が多いのは必然の結果です。しかし女性は女性ホルモンが生理的に安定していない為、味覚も不安定となってしまう事もまた事実。同じ味を提供する必要のある料理人に男性が多いのはこれが為です。

本日の箴言

 好き嫌いから始まる味覚は、飲み続ける間に進化し変化していくものである。ワインのもつ独自の味わいについて最良の判定をするのは個々人の味覚にほかならない。ワインの鑑賞において、絶対に正しいとか間違いなどというものがあるわけがない。

ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン『世界のワイン図鑑』

平日の一本

Sauvignon Blanc 2018 (Marlborough, New Zealand, MUD HOUSE)

 ややグリーンがかった淡いイエロー。粘性は強めで、果実エキスの凝縮度を思わせる。グレープフルーツ、パッションフルーツ、グアヴァ、アスパラガスやさやえんどうの鮮やかな香り立ち

 ドライ、クリスプな酸、果実感と若干アルコール度(13.5%)の高さを感じさせるミディアムボディ。余韻は中程度。高めの酸と熟した果実感のバランスが取れる5~8℃、小振りの グラス

 フードフレンドリーな品種だが、特にサラダや菜の花サンドイッチ、或いは葱チャーシューやレバニラなど、グリーンな風味同士の相性には特筆すべきものがある。またサーモンとのペアリングはこの品種のお約束。加えてカニクリームコロッケやレモンを絞る料理とも良い組み合わせ

 清々しいニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランに心が弾む。バッハ:無伴奏パルティータ第3番ホ長調ガヴォット・アン・ロンドーと(軽やかに突き抜けるヴァイオリンの音が爽快な酸と合う)

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