第二十二瓶 ワインと健康(赤ワイン編)

 前稿(低アルコールワイン)にて少し触れました健康について、今回は掘り下げてみます。正直なところ、このテーマを記事にする積もりはありませんでした。何故なら「健康第一ならば青汁だ!」が持論ですし、ワインは嗜好品であって医薬品ではないのですから、楽しむ為でなく健康の為にワインを摂取される方がこの「楽会」へお越し下さる事は無いかと思いましたので。しかしここ五年ほど健康にまつわる情報を収集しておりませんでした為、目紛めまぐるしい科学技術の進歩と共に真新しい研究結果が発表されているかも知れないと思い、再調査してみました。

 酵母による発酵のメカニズムを解明した、19世紀フランスの自然科学者ルイ・パストゥールは「ワインは人間の飲み物の中で、最良の、最も健康的なもの」という言葉を残していますが、当時の人々は我々現代人ほど健康志向をお持ちではなかったようであります(恐らく健康よりも生存の方が重要問題であったのでしょう)。ワインが健康と結び付けられた事の発端は、1991年11月17日の夜中、アメリカCBSの「60 MINUTES」という人気ニュース番組でした。其処で赤ワインの健康効果が取り上げられたのですが、それが全米二千万の視聴者の常識を見事に引っ繰り返すものだったのです。元々アメリカは禁欲的なピューリタンによって築かれた国家で、自己否定に喜びを見出すピューリタン信仰が無くなった後も、舞踊・飲酒・観劇・小説さえ禁止もしくは制限される厳格なこの宗教に影響されて来ました。よってアメリカ人の心には快楽の為の快楽は自粛すべきという認識があり、それが1920年1月16日に施行されたアメリカ合衆国憲法修正第18条、所謂いわゆる「禁酒法(※1)」に繋がる訳です。そしてこの1933年迄の十三年間に及ぶアメリカ最大の悪法を経験して「禁酒は美徳」という意識が残る人々を、このニュースが仰天させたのです。先ず最初に、アメリカにおける死亡理由の最たるものが動脈硬化に由来する狭心症や心筋梗塞などの「循環器系疾患」であり、アメリカ人の二人に一人がこの為に亡くなり、四人に一人がこの疾患を患っている事が知らされます(この時視聴者は途轍とてつもない不安と恐怖に身を震わせています)。しかしその直後、赤ワインに含まれる「或る物質」がこれに対して有効だという知らせが高らかな口調で伝えられます。(この時視聴者の眼前に広がる闇の中に一条の光明が差し込みます。しかしオアズケ、此処でコマーシャルが入り)その後、一方で肉やバター等の動物性脂肪を多量に摂取する上に喫煙率も高いフランス人だけは、欧米人の中でも例外的にこの疾患が少ないという情報が、専門家の口から説得力豊かに語られます(因みにこの矛盾が、フランスのルノー博士等が研究した「フレンチ・パラドックス」。まだまだオアズケ、それ以外にも色々とウンチクが語られた後、やっと)実はこれは赤ワイン中の「ポリフェノール」が血管を綺麗にし、動脈硬化を防ぐからだ、と物々しく報道されるのです(そして翌日、あれ程売れ残っていた赤ワインが店内から忽然と消え去った…)(スミマセン、話の流れは日本TV番組風に半分私が脚色しました、が最後は事実のようです。その目と耳でご確認を⇒CBS:The French Paradox〈13:17〉https://youtu.be/UHbGOtF0LEw〈特に興味深いのが9:43~10:21、学校給食からミルクを廃止して水で薄めたワインを出そうという意見。登場するルノー博士は「5,6歳でミルクを止め、10か12歳で大量の水に薄めた少量のワインを食事時に飲み始めた」と仰っています。なお博士は2012年10月28日、メドックの小さな村にて85歳の生涯を閉じられました。心よりご冥福をお祈り申し上げます〉)

 この活性酸素を撃退する抗酸化物質ポリフェノール、これは植物が光合成によって生成する色素や苦味成分で、大凡おおよそ葡萄の種子に50~70%、果皮に25~50%、果汁・パルプに2~5%含まれているのですが、赤ワインにおいては果皮の色素の元である「アントシアニン」、或いは「フラボノイド」、そしてがん等に有効である「リスベラトロール(※2)」があり、一方種子からはご存知「タンニン」「カテキン」「ケルセチン」「プロアントシアニジン」、また果汁・パルプには「カフタリック酸」「クータリック酸」「ガリック酸」等があります(山梨大学ワイン科学研究センター佐藤充克特任教授の調査より)。漬け込みマセラシオン工程がある赤は白ワインの十倍ほど多く、また赤でも皮が厚く、色素量や 渋み の有るワイン(※3)の方が多いと言われます。その一方で、葡萄で言うと、黒葡萄よりも白葡萄の方が果皮に多く含有されている為、赤ワインよりも確りとスキンコンタクトをした白ワインの方がポリフェノール量が多いという事になります。とは言うものの、ポリフェノールだけを求めるのであれば、チョコレートや葡萄ジュースで沢山です。

 ※1 酒類の販売・製造・運搬は禁じられたが、購入・飲用・所有は自由であった為、路上で泥酔しても「施行前に買った」とでも言えばお咎め無し(かえって飲酒事故が増えたとか)。宗教や医療目的の製造は容認されたため一部のワイナリーは生き残ったが八割が閉鎖し、アメリカのワイン産業は壊滅(自家醸造ワインを飲むのは許されたため家庭ワイン造りが盛んになり、逆にワイン消費量は倍増した。が、ヒドイ味だったのは言うまでもない)。ナパの高級ワイン造りは一世紀以上遅れたとも(逆にこの深刻な状況が業界を動かし、特にナパやソノマでヨーロッパの醸造技術の頂点に達する進歩を遂げたとも。いつの時代も逆境が人を進歩させるのです)。「酒場=悪の巣窟」「アル中=社会のくず」とされ、「酒=悪」という概念が跋扈ばっこ(当時のアルコール法律管轄機関はBATF=Bureau of Alcohol, Tobacco and Firearms、即ちアルコールとタバコは銃火器と同じくらい危険で厳しく管理されねばならぬと考えられた、という事。尚2003年1月からはTTB=Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureauの管理下にある。何れにせよ、健康を脅かす物に対しては国家干渉は必至)。しかしこの本質を根底から変えたのが、モンダヴィ(参考⇒ワインと音楽のペアリング)達が推奨した「フードワイン」、即ち「ワインは食事の一部」という考えであった(「食事=悪」と断言する人は居ませんよね。但しこれは飲む為の理由付けで、ペアリングの概念〈⇒五味と五感から知る! ワインと料理のペアリング法〉とは異質)。これで食事と一緒にワインを数杯・・飲んでも快楽であるという罪悪感は持たなくて済むようになった。因みに禁酒法終焉時には「また幸せな日々がやってきた」と歌われたのだとか(ヤッパリみんな飲みたいのだ! 映画『アンタッチャブル』でもそれを推測させるシーンが幾つかありましたネ)

〈追記〉鎌倉幕府(1185~1333)は既にこの禁酒法と同様の政策「沽酒之禁こしゅのきん」を建長四(1252)年に打ち出し、酒の売買を禁じていた。それは新興階級として登場した武家の制度の根底に、過差の禁止、勤倹・礼節の厳守が法制化されていた為、酒(と女)は抑制力を弱め、節度・礼節を乱し、また武家を困窮に陥れる恐れのあるものとして忌避された為であるという(他には、酒屋が金貸し業も兼ねるように為り商人の力が強く為る事を恐れた為とか、建保元〈1213〉年の和田合戦で飲酒によって油断した北条方が苦戦を強いられた為という説も)。実は日本という国では古代から幾度となくこうした禁酒令が出され、初出は更に遡り大化の改新が始まった大化元(645)年、凶作により農村が荒廃した為、「早々に田作りに務め、美食をしたり、酒を飲むべからず」と農産物節約の趣旨に促されて布告された

 ※2 単体のサプリメントは効果無く、逆に酸化ストレスを高める(体の錆、加齢臭:エイジング↔赤ん坊の 匂い)。様々なポリフェノールがミックスされて酸化ストレスが下がりアンチエイジングに繋がる

 ※3 カベルネ・ソーヴィニョンとバローロ(ネッビオーロ)が多いという研究結果があるが、一体誰が健康の為にバローロを飲むだろう? 大雑把に見積もっても、安めのバローロ1本で高めの青汁を30杯は飲めるだろう。因みにイギリス誌『ネイチャー』によると最も期待出来るのが「オリゴメリック・プロシアニジン」を最も多く含むタナ種(フランス南西地方「マディラン」が代表ワイン)。加えて、同一銘柄なら古い ヴィンテージ の方が効果が高い

 これ以上わずらわしい説明は止め、一般消費者が知りたいのは結果のみ。という事で、此処で人体への健康効果を列挙してみます──

・認知症予防、認知機能改善(脳細胞を刺激、再生し、老人の記憶力を再び高める)

・ダイエットやストレス減(軽い運動によって得られる効果)

うつ病対策

・寿命延長(若返り効果はルイ15世の時代には知られており、ポンパドゥール夫人など上流社会の女性達を魅了したという)

・メタボリックシンドローム改善(脂質調節作用)

・高血圧対策(血圧を下げる)

・高コレステロール対策

・加齢による失明予防

・抗癌作用(乳、肺、前立腺)

・骨密度向上

・抗炎症作用

・神経障害対策

・脳卒中リスク減

・循環器系疾患(狭心症、心筋梗塞等)予防

・アテローム性動脈硬化症対策

・2型糖尿病リスク減

・肝疾患対策(まずはアルコール止めなさいって)・・・などなど

 ──予想に反して煩わしい結果になりそうなので此処で止めておきます。一度ひとたび検索すググると大抵の知識は得られる利点があるものの、反面アレコレ情報が交錯し「これは本当なのか、でなければ一体どれを信じるべきなのか?」と、何が何だか良く分からない状態になる、これが現代の情報化社会における最大の欠点であります。正直私ももう煩わしさを隠せませんので「免疫システムの向上」、この一言で済ませても宜しいでしょうか?

本日の箴言

 あらゆるアルコール飲料の中で・・・ワインこそ、身体をリラックスさせる作用からいっても、栄養の面からいっても、間違いなく最も完全な飲み物である。

フランス・ブドウ農業組合(1910年)

平日の一本

Madiran 2004 (Patrimoine & Terroir, Tannat, Cabernet Sauvignon and Cabernet Franc)

 ミディアムガーネット、黒系ベリー(ブラックベリー、黒プラム、カシス)、ジャミーなドライプラム、薔薇、黒胡椒、(ヴァニラ、クローヴ、トースト)、そして第3 アロマ(獣、革、湿った葉、土)

 ミディアムレベルの酸、やや粗めだが不快ではない強いタンニンと14%の強いアルコールが厚めのボディを形成する。余韻は中程度。熟成由来の特徴が良く現れ、酸と果実味がミディアムレベルでバランスを取っている。しかしアルコールがその果実味を圧倒する程に強い。また粗めの 渋み がアフターテイストに幾らか苦味を生む。16~20℃、大振りの瓜実型 グラス で、ローストチキンやハンバーグの様な柔らかめの肉料理と楽しみたい

格安蔵出し熟成ワイン:タナ+長熟→赤の中で最も健康効果あるハズ(確かに翌日肌のツヤが良くなったような…)

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