第十一瓶 テイスティングの方法

 テイスティングの目的をご理解頂きました後は、その方法です。私達は旅行をする時、目指す行先を決め、それから其処に辿り着く為の方法を考えます。しかしテイスティングは逆で、「外観→香り→味わい」を手掛かりに順に辿って、目的地である「年・産地・品種」へと到達するのです。そしてその過程の方に、試験でもコンクールでも配点率は高めに割り当てられております。JSA2次試験において、感覚的な判断から最初に品種を決め、暗記した通りにその品種の特徴を答えるという状況が良く見受けられますが、それをしてしまうと、もうその品種の呪縛から逃れる事は出来なくなり、結果誤った特徴を選んでしまう事になり兼ねません(※)。何よりもその行為はワインから情報を読み取っているのではなく、自分の先入観からワインを決め付ける事であります。人に対しても、第一印象だけで「あなたはこういう人ですね」と決め付けてしまうのは大変な失礼に当たります。ですので、くどいようですが、飽く迄ワインと対話をして、目の前のワインを理解してあげる姿勢を崩さないようにしましょう(しかし本番で悩む時は直感を優先するのも一案と思います。何故なら時間も限られていますし、何より考えれば考えるほど深い藪の中へと迷い込んで行くだけですから)。

 ※ とは申しましたが、ワインを学んでいく上で品種特性を覚える事は非常に重要で、実際JSA2次試験はそれで合格出来るものです(基本として押さえて置くべき主要品種から出題されますので)。しかしまだその先をお考えの方は、早めにこの方法から卒業出来るよう「勉強」とか「訓練」とか「復習」などという名目で、白昼堂々とワインを飲み続ける必要があります。前回申しましたようにテイスティング試験はお昼前に行われますからネ(本番と同じ環境を作って行うのが最善ですが、しかしながら私達にはルーティンワークというものがありますので、実際平日昼からの試飲は難しいです。私は大方休日の夕食前に行い、そのまま残りのワインは食事と共に楽しむようにしています。矢張り飽く迄ワインは主役たる料理を引き立てる脇役ですから)

 【外観】

 ①清澄度:健全度の確認。ワインは瓶詰め時、熟成中、運搬時などで何らかの異常があれば混濁し輝きを失う。但し造り手の意向による無濾過や無清澄、また豊富なタンニンを含むワインはその限りではない。最も濃いディスクの中心で見る

 ②輝き:酸度と密接に関係し、高いと色素が安定して輝きが増す。若いワインや酸の豊かなワインと推測。中心とエッヂの中間で見る

 ③濃淡:最も重要(色素量が要因である為、白よりも赤の方が重要)。ぶどうの成熟度、ワインの濃縮度を推測。全ての部分で見る。淡ければフレッシュで軽め、アルコール度は低めと推測。白は熟成と共に濃くなり、赤は淡くなる → 液底を通してターゲット(赤では、グラスを傾け液底を通して文字が見えるか、真上からステム上部のボウルとの接合面や自分の指が見えるか)

 ④色調:グラスを傾けて楕円形になった液面の外縁から判断。熟成度を推測。エッヂと中心の違い及びグラデーションが大きいほど若い、もしくは凝縮度が高い。それが穏やかだと熟成の兆し → 「~がかった」=(酸化)熟成の状態表現 ⇒ 自然界に沿った変化(林檎が酸化現象によって茶色を帯びるように、ワインも酸化熟成によって茶色を帯びて行き、やがて土へと還ります):(白)緑→黄→オレンジ→茶 (赤)紫→赤→オレンジ→レンガ

 ⑤粘性:アルコール度、グリセリン及び糖分の量の判断。グラスの壁面を伝う滴(涙、脚)の状態を見る。太め・薄め・間隔広め・遅め:質量低い。細め・厚め・間隔狭め・速め:質量高い。ディスクの端の表面張力部分の厚さでも見る事が出来る → 粘性=純エキス分:上質ワインは水よりも血に近い(古代人は、味が変化するのはワインを「生きた水」と考えていた為→「人の血」→イエスの「ワインは我が血」は民間伝承が背景にある)

 ⑥泡立ち:発酵由来の炭酸ガスが抜け切っていない若いスティルワインに見られる事がある。意図的に炭酸ガスを残した造り方をする場合もある。スパークリングワインの場合は、泡の繊細さや持続性も見る

【香り】(参照 アロマアロマティック

①第一印象 ②強弱 ③熟成度 ④複雑さ ⑤内容

・第一アロマ:原料ぶどうに由来する香り。果実・花・ハーブ・ミネラル など

・第二アロマ:発酵に由来する香り。低温発酵ではキャンディ・吟醸香、マセラシオン・カルボニック法によるバナナ、酵母によるバタースコッチやイースト、マロラクティック発酵(MLF)では杏仁豆腐・カスタードクリームなど

・第三アロマ:熟成に由来する香り。別名ブーケ。木 からはヴァニラ・ココナッツ・ロースト・スパイス(クローヴ、ナツメグ)・アーモンド・キャラメル・チョコレート・コーヒー、松脂など。また酸化熟成による第一・第二アロマの変化により現れる複雑な香り(動物系〈燻製肉、なめし革〉、土系〈スーボワ、腐葉土〉、葉巻、カラメル、蜂蜜、ヨードなど)

【味わい】

 ①アタック:口に含んだ時の第一印象。ワインの強弱を見る

 ②甘辛度:高い果実味(果物を食べた時に感じる香味、ワインの奥行き)、アルコール(グリセリン:Alc発酵の副産物で揮発性に乏しく香気成分とは為らないが、糖とは異質のしっとりとしたコクのある甘さ、Alcの芳醇な広がりを感じさせる)や残糖分が甘さとして感じられる → ワイン中のグリセリン量は甘味を感じられる程も無いという研究結果も(通常ワインは0,7%と微量、一方 貴腐 ワインでは2%越えも多く酒質に影響を生む)。したがって一般のワインの甘味は葡萄の熟度か残糖に由来する

 ③酸味:(特に白で)味わいの軸(ワインに酸が無かったら平板で粗野な風味になってしまう)。ワインの個性を表す要素として、品種の個性、産地の気候や標高、そして若々しさを判断。酸度が高いと瓶内のワインは酸化しにくくなる → 強弱レベルの判断は、檸檬をかじって舌の両脇に感じるイメージが一般的だが、アルコールの刺激と混同し易い為、唾液の分泌量で確認する方が正確(ワインを吐き出すと共に唾液も失う為、脱水状態にならないよう水分補給が必要)

 ④ 渋み:長期熟成タイプの赤ワインの味を構成する要素。収斂性(触覚)として感じられる。自然のタンニン(茎・種・果皮由来)は荒々しい事が多く、樽のタンニンは円やかな場合が多い(ウイスキーやブランデー、ダーク・ラムなど樽熟させたお酒に明白ですネ)。バランス上はアルコールが十分である事が必要

 ⑤苦味:豊富な日照、高い気温の下で育ったぶどう(完熟度の高さ)に由来する。ミネラル も貢献 → 後口をドライ(乾いた印象)にしたり、リフレッシュする事も。又しっかりしたボディに更に強さを与えたり、味全体に深みや余韻の長さを作る事も。

 ⑥フレーヴァー:口中に広がる香り、レトロネーザル(あと香)(復習はコチラから⇒ワインの味わい方 ー葡萄酒との対話ー)。低め・繊細なものは個性は弱め。豊か・複雑なものは完熟ぶどう及び樽や熟成の影響を受けたワイン

 ⑦アルコール度:味わいに甘味やヴォリューム感(苦味を伴う事も)、熱さや刺激、厚みや骨格を付与する → レベルの判断は、舌先のピリピリ感(ニュートラル:12,5%、ピリ:13%、ピリピリ:13,5%)や飲み込んだ後の喉の熱さ(ほわっ:13,5%、じわっ:14%、ぐわっ:14,5%)など、自分の基準で

 ⑧ボディ:ワインが持つ濃くや重みの大小。アルコールを主とし、他の抽出要素(果実味の凝縮感、香味の複雑性と広がり、余韻の長さ)も含めた総合体。目安はライト(~11.9%)、ミディアム(12~12.9%)、フル(13%~)。テクスチャー(ワインの肌理を表現する語、マウスフィールとも。粘性・酸味・渋み等の相互作用で決まる)も関わる → 例えば、無脂肪牛乳はライト、高脂肪牛乳はフルボディ

 ⑨バランス:其々の要素の調和。ボディのフォルムを表す → 甘味・酸味・渋み全て感じるが、一つに集中/特定出来ない味

 ⑩余韻:飲み込んだ後に残る味わい(香りではない。WSETでは酸味や苦味は考えず果実味が如何に残るかで判断)。持続性、強弱によりワインの価値が判断できる。短い(~5秒)、中程度(6~8秒)、長め(9秒~)→ 余韻の長さと質や価格は比例する。caudalie(単位:1コーダリー=1秒)「しっぽ」を意味するラテン語「カウダ」から。フランスではこんな言葉があるほど余韻は大切。「余韻に表れる特徴こそ、取り繕いようのないワインの本質」という声も

winemakermag.com
さあ今一度鼻を塞いで香りを遮断し、仮説Aのイメージで舌に意識を集中して五味を捉えてみましょう(改めてコチラもどうぞ⇒味わいの分析図

本日の箴言

 ワインとは、私達の味覚の先生である。内省へと人をいざないながら、ワインは心を解き放ち、知性の輝きに火を放つ。

ポール・クローデル『ワイン称揚』

平日の一本

Noble Semillon, 2015 (Viu Manent, Valle de Colchagua, Chile)

 グラデーションのある濃いイエロー。

 貴腐 葡萄由来のツーンとするマニキュア的揮発酸香が程良く上品さや高貴さを演出する。新鮮な蜂蜜、ドライアプリコット、オレンジマーマレード、シトラスピール、また 樽 由来か、アーモンドやヴァニラのニュアンスも。

 とろみのある触感、充実した果実味の上に酸が上品に乗り、スパイシーな刺激を伴う余韻は中程度。フルボディの極甘口。チリの遅摘み・貴腐は安価で上質だが、中でもこれは他のハーフボトルに比べて多量の500mL。

 カレー(スパイシーさを和らげ風味を円やかにする、蜂蜜を入れる原理に同じ)、鮪の粗煮(料理の触感と甘味にワインの粘性と甘味が同調)、またソースカツや柚子風味の稲荷寿司、そしてフォアグラとは正にマリアージュのお手本。デザートとして、チョコレートアイス+杏子ジャム、オレンジ風味のトリュフチョコ、胡桃(奥に秘められた脂分の香ばしい風味が引き出される)とも良く合う。

“第十一瓶 テイスティングの方法” への17件の返信

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