第二十瓶 ワインと音楽のペアリング

 先日は途中退場してしまいまして、大変失礼致しました。食べ物の話ばかり聞かされたものですから、恐ろしい空腹感に襲われまして…あの後彼から「職務怠慢だ!」と散々に苦々しいお小言を喰わされました。とは言え「美味も喉三寸」、どんなに美味な物でも美味いと感じるのは舌から喉を通る時だけ。喜び、悲しみは一時のはかないものですので、嫌な過去の事はさっさと忘れて前を向いて行きましょう。それにしてもCちゃんの肝ったまの据わりよう、皆様ご覧になりましたか? 超弩級どきゅうワインを片手に講釈をおっ始めるなんて味な芸当、並の男には出来ない事です。私なら、AOCサン・テミリオン・プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA格付けの、あのなまめかしく色っぽい、美しく調和した肢体ボディで飲む者をとりこにするシュヴァル・ブランに天地が引っ繰り返るほど熱狂し、五味だの五感だのと余計な小賢こざかしい事を考える余裕なんてありません。口惜しや、またしてもその差を見せ付けられた思いです。我々の好敵手たり得るAIロボットも何のその、人々に楽しみの時間とくつろぎの空間をもたら可笑おかしみを持する彼の堂々たる且つ人間味溢れる立ち居振る舞いは人間の私も見習わねばなりません。という事で今回のお講義も彼にお頼みしたところ、あっさり断られてしまいました。と言っても別に私への宿怨しゅくえんからではなく、表題の件は「専門外だから」と言う訳です。確かにプロメテウスは彼に色・香・味を識別する目と鼻と口をお授けになりました。しかしどうやら音楽をする耳を与えるのはお忘れになったと見えて、「C調」とは言うものの、たえなる調べの事につきましてはからきし駄目なCちゃんなのであります。

 さて、音楽の世界がワインの世界にも影響している点は以前から知られており、例えばボルドーは アサンブラージュ(複数品種のブレンド)ゆえ重厚な交響曲に、ブルゴーニュはモノ・セパージュ(単一品種)ゆえ純粋美のヴァイオリンやピアノのソナタに喩えられたりします。音楽家や楽器、或いは楽譜や音符を描いたラベル等も屢々しばしば見掛けるところであります。有名音楽関連ワインの最たる物は「オーパス・ワン」でありましょう。これは「一本のワインは交響曲、一杯のグラスはメロディー」という概念のもと、造られているそうです。「オーパス」という語は非常に優れた作曲を意味する音楽用語と聞いていた為、以前 ワイン検定 にお越し下さった女流ピアニスト高城香那さん(※)に伺ってみたところ、この様なお答えを下さりました。此処に引用させて頂きます──

「オーパス」というのは音楽用語だと「作品」という意味です。 クラシックだと作曲家や、その研究者によって作品番号がつけられます (有名な作曲家ですと例外でバッハは「Opus」の部分が「BWV.ビーダブリューブイ」、モーツァルトだと「KV.ケッヘル」、どちらも「作品番号」を表していますが主流は「Op.オーパス」です)。研究者によって発見された順番や、作曲家が若いときから生まれた作品を順番にナンバリングしているのです。音楽用語の 「オーパスワン」といえば「作品第一番」で初めて作った作品、というものです。 音楽的な部分では少し未熟な部分もありつつ若く、純粋なものでその後の音楽性を読み取る中で幹になるような、情熱的で大事な第一作品…番号が大きくなるほど成熟して複雑になったり、また新しい感性が現れたりします。

──矢張り専門家の説明は流石、恐れ入ります。ところで、以前山梨県笛吹市のモンデ酒造さんに伺った時、こんなワインが販売されておりました。(⇒ amazon楽天

 「ワインが音楽聴くんかい?」と思った方は早とちり、実は私もその一人。

言わば「音響熟成装置」と言うところでしょうか

 音は波長ですので、この Vibro Transducer を使用する事で、熟成過程で音楽を振動に変えて伝える事で、分子である酵母〈参考⇒澱(フランス語 Lie リー)〉が活発に活動し、また水分子が小さく為り擬似熟成効果が起こる事によって、ワインに円やかさが備わるという訳であります。実際この過程を経た物とそうでない物を試させて頂いたところ、矢張り前者の方が味わいに若干の深みや落ち着きが感じられました。チリのアウレリオ・モンテス氏は「穏やかな波長は、無音もしくは甲高い音楽よりもワインにより良い熟成を演出させる」と言い、ワインにグレゴリオ聖歌を聞かせているそうです(因みにどんな音を流しても、発酵過程には影響しない事があるのだとか)。また千葉県の日本酒「五人娘」で知られる寺田本家の蔵人さん達は、酛摺り唄や太鼓を響かせて「微生物たちに想いを届け」ていらっしゃり(⇒清酒の味わい方(香り))、福島県喜多方市の小原酒造は、様々な音楽の中でもモーツァルトの交響曲/セレナーデ/協奏曲を醪に聞かせると、酵母の増殖速度の増加と死滅率の減少、及びアミノ酸生成率の低下、要するに酵母が活性化して一段と生き生きと為り、吟醸香味も冴える事を実験から発見し、「音圧による醸造方法」なる特許認定と共に、「蔵粋くらしっく・大吟醸交響曲/吟醸夜曲/純米協奏曲」という名を冠した日本酒により音楽蔵の元祖となった次第です。(変わり種は、岐阜県飛騨市古川町の「蓬莱」を造る渡辺酒造店。其処では「お笑い」を聞かせ、醪を賑やかに沸き立たせておるのだとさ^^)

 扨モーツァルトに関連して、イタリアの Il Paradiso di Frassina の畑では葡萄の樹にその楽曲を聞かせているとの事です。ココで再び「ブドウが音楽聴くんかい?」と思った方、あなたのそそっかしさに私も附いて参ります。勿論聞く訳ありません。ただ、音楽は植物の成育を助けませんが、音を切っ掛けにして生存能力が付くのだそうです。植物は自然界の静かな風の音や虫の音に晒されており、それらの振動を天敵である芋虫のむ時の振動と区別し、そして芋虫の振動を感じた時、植物は芋虫が嫌う化学物質を出して自分を守るのです。無害な音/振動に慣れさせる事で、有害な音/振動に敏感にさせようという目論見もくろみなのでしょう。

 これで音楽を葡萄樹および葡萄酒に聞かせる効果は分かりました。ではワインを飲んでいる人間に聞かせるとどんな効果があるのか? 植物の様に生存競争を乗り越える力が湧いてくるのでしょうか? そうかも知れません。或いは樽内ワインの様に加齢エイジング効果があるのでしょうか? それは困ります。音楽が人の感情と結び付くのであれば、感情を揺さ振るワインというものが在る以上、この両者は無関係ではないでしょう。実際音楽がワインの味に影響するという事は幾つかの記事で報告されておりますが、クラシック/ジャズ/ロック/テクノ/ブルース/ボサノヴァ/レゲエ/雅楽/オペラ/讃美歌/軍歌などなど、挙げれば枚挙にいとまがない音楽にはより人の好みの差が現れるのでしょう。その楽音から呼び起こされる感情や印象も人様々、味覚以上に曖昧模糊あいまいもことして、残念ながら、料理との相性ほど常套的・普遍的・決定的な充実した研究成果は見出す事が出来ません。成る程、報告によると、「優しい音色 × ふくよかな白(MLF)」に「鋭い音色 × 酸味の強い白」または「金管楽器 × 酸/塩味のある白」、加えて「交響曲 × フルボディ」や「ロック(ギター)× タンニンの強い赤」もしくは「ヘビーメタル × 大味な赤(シラー、カベルネ)」とか、更には「好きな音楽を聴くと甘味を感じ易くなる」、果ては「音が大き過ぎると甘味受容体が抑制されて 旨味 が強まる」なんてもの迄ありました。確かに人は緊張すると唾液分泌量が減り、味覚の感受性も下がる為、前者の言い分には合点がてんが行きます。と申しますか、くつろがずに甘いひと時は遣って来ないでしょう。一方、後者の説に関しましては、抑々そもそも私はやかましい環境でワインなぞ飲む気が起きません為、真偽の程は定かではありません。しかしながら、これらから容易に想像が付きますように、大雑把にまとめれば「甘く柔らかい音楽には甘く柔らかいワイン、力強く重い音楽には力強く重いワイン」という具合で、料理と同じく「同等」で合わせるのが定石でありましょう。

 こうして結局、互いの性質を分析して同調させるというのが、私が結論として辿り着いたペアリング法です。此処ではオーケストラの楽器を主体にワインとの相性を検討し、イメージし易いよう可能な限り人の性質になぞらえて列挙してみます。しかし毎度の事ながら、これは飽くまで提案です。むしろ今回のテーマは、私が音楽に関しては門外漢という事も御座いますが、まだまだ開拓する価値がある筈です。何故なら、一般ワイン愛好家が音楽や図形など言語以外を判断する右脳でワインを味わっているのに対し、ソムリエは文字などの情報を処理する左脳でワインを味わっている為、「ワインと音楽のペアリング」はソムリエの認識対象外ゆえの研究領域外に在る事象だからです。あの人当たりの良いCちゃんが0,1ゼロコンマイチ秒で「専門外だから」と言って冷たくさじを投げたのも、今思えば至極当然であった訳です。したがってこの表題の解明は私達一般ワイン愛好家が推し進めなければならない課題なのであります。是非皆様のご意見をお寄せ下さい。こちらからの一方的な情報だけでは、所詮推測の域を出ない信憑性に欠ける記事に過ぎませんので。

 ※参考記事:https://www.decanter.com/learn/how-to/can-music-make-wine-taste-better-281761/https://www.winespectator.com/articles/pairing-wine-and-music-with-harvey-steimanhttps://thenextweb.com/science/2018/08/20/vinters-are-using-music-to-make-better-wine/

〈弦楽器〉

・ヴァイオリン:華やかさ、表現力の広さ、特別な個性の無いニュートラルさ ⇒ シャルドネ、甲州

・ヴィオラ:広い音域、陰から支える深み・渋み の男性的鷹揚さ ⇒ カベルネ・ソーヴィニョン

・チェロ:甘くロマンティック、魅惑的、深み、包容力、揺らぎの無い人間性 ⇒ サンジョヴェーゼ

・コントラバス:底から支える、内省的、泰然自若、唯我独尊、不器用で不安定 ⇒ グルナッシュ

〈木管〉

・フルート:高音、透き通るような伸びやかさ、スピード感、つややかさ、上品 ⇒ リースリング

・クラリネット:広い音域、繊細で奥深い、安定、万能型、冷たさ、人当たりの良さ、アタックは柔らかい ⇒ ソーヴィニョン・ブラン

・オーボエ:繊細で情緒的、神経質 ⇒ カベルネ・フラン

・ファゴット:低音、重厚感から切ない高音まで可、フランス的大らかさ、とぼけた剽軽ひょうきんさ、愛すべき間抜け ⇒ ヴィオニエ

〈金管〉

・ホルン:柔らかさ、忍耐強い寡黙さ、華やかで力強い ⇒ メルロー

・トランペット:華やかさ、勇壮、単純明快、やる気満々 ⇒ ゲヴュルツトラミネール

・トロンボーン:力強さ、厳粛さ、大きく余裕のある貫禄、ストレスの無い解放感、紳士でなく農民的 ⇒ ピノ・グリ

・チューバ:低音、深み、迫力、内向的、求心的 ⇒ ネッビオーロ

〈その他〉

・ハープ:穏やかさ、夢見がちな深窓しんそうの令嬢、貴族的素直な幸福 ⇒ ピノ・ノワール

・ピアノ:ピッコロ(高)~チューバ(低)の音域の広さ、楽器の王 ⇒ ピノ・ノワール

〈上記の記事より〉

・オルガン × 赤(重)

・ハープ × 白(軽)

・ピアノ × リースリング(遅摘み・甘口)

・高音(ヴァイオリン、フルート、ソプラノ)× ソーヴィニョン・ブラン、シャブリ

・ヴィオラ、リード楽器(クラリネット、オーボエ、サクソフォーン)× 新世界シャルドネ、ボルドーブラン(樽)

・チェロ、テノール × ピノ・ノワール、グルナッシュ

・バス、バリトン × カベルネ・ソーヴィニョン、シラー、バローロ

・モーツァルト × ピュリニー・モンラッシェ(プルミエクリュ)

・ベートーヴェン × ピュリニー・モンラッシェ(グランクリュ)

〈研究誌『Flavor』より〉

・チャイコフスキー 弦楽四重奏曲第一番 × シャトー・マルゴー2004

・モーツァルト フルート四重奏曲第一番 ニ長調 × プイィ・フュメ

〈個人的に〉

・ モーツァルト ホルン協奏曲 × Pommery Louise 2004

・モーツァルト 交響曲第四十番ト短調KV.550 × Cirò DOC Rosso Classico Superiore(3~5年熟成)(Cantine Lavorata, Calabria, Italy)

・バッハ 無伴奏パルティータ第三番ホ長調ガヴォット・アン・ロンドー × Sauvignon Blanc(Marlborough, New Zealand)

・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 × Chateau Mercian 甲州小樽仕込み2015 Barrel Fermented

・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第五番ホ長調作品73「皇帝」× Bourgogne Blanc(シャルドネ+樽+ミネラル

 ※ 高城さんから有り難いご意見が届きました。「楽器というより、作品の中で品種が化けるのではないかとも感じます。ドボルジャークの新世界ではカベルネ・フランだったオーボエが、ベリオのセクエンツァⅦでソーヴィニヨン・ブランの印象になったり。モーツァルトのホルン協奏曲では華やかなシャンパーニュでも、ウェーバーのホルンと管弦楽のための小協奏曲だと少し牧歌風の白に。」成る程、今回私が試行してみた楽器を一々分析する見方ではなく、まとまった一つの曲として全体を見るという姿勢です。確かに私達は一つの楽器音だけを楽しむ訳ではありませんので、こちらのアプローチ法の方が現実的で実用的です。曲の数だけワインを挙げる大仕事に為りそうですが、皆様のご意見が、ワインの楽しみ方に新しい息吹を吹き込む筈です。ご意見が届き次第都度更新して参りますので、ご協力頂けたら幸いです。また高城様のご協力に改めて感謝申し上げます。(是非ご覧下さい⇒公式:http://www.76bpm.com/kana/index.html#pagetop、ブログ:https://ameblo.jp/knmusic/、フェイスブック:https://www.facebook.com/pg/Takagi-Kana-111095793934043/posts/?ref=page_internal

 いずれにしましても、盛り付けの美しさや諸々の環境(⇒味わいの分析図 の表)のみならず、カトラリーの重さや皿の形・色(※)でさえ同じ料理でも味の感じ方が変わる程、人間の味覚とは不確かなものです。であれば如何に最高の状態で美味しく頂けるか、ワインと同じ様に、命の犠牲から生まれる料理に対しても、五感を総動員し配慮して上げたいものであります。

 ※ サーモンピンクは甘味、白/青は塩味、黄/緑は酸味、暗褐色/紫は苦味を感じ易く為る傾向にあるのだそうです

〈ご意見欄〉

・ ドビュッシー 交響詩「海」× アルバリーニョ(リアス・バイシャス、スペイン)

(第一楽章は「八海山Sparkling発泡にごり酒」とも合いそう)

本日の箴言

 芸術とは形式的な性質を突き詰める事。葡萄酒においては 香りアロマ味わいパレット調和バランスを指し、それは音楽における律動リズム旋律メロディーそして和声ハーモニーに相当する。

記念日の一本

Opus One 2006 (Alc14,5%, Oakville, Napa Valley, California)

 1970年:ロバート・モンダヴィとフィリップ・ド・ロートシルト、ハワイでのカリフォルニアワイン展示会で出会う

 1978年:ジョイントベンチャー合意(モンダヴィが葡萄供給、大樽にはシャトー・ムートン・ロートシルトの在庫から。醸造は両ワイナリーの専門家が共同)。カベルネ主体の典型的ボルドースタイルだが、最高級の葡萄と米仏の最新科学技術の結晶が話題に。命名候補は「アライアンス」(同盟)、「デュオ」(デュエット、二重奏)、「ヤヌス」(頭の前後に顔を持つローマ神、物事の始めと終わりを司る事から1月Januaryの語源)とあったが、新旧の違いよりも共通性、独自性、革新性を強める意味で「オーパス・ワン」(作品番号1)に。ラベルも芸術家に依頼するムートン同様に凝り、「楽譜を載せて五線譜上にオーパスの名」の案はロバートが「インテリ臭い」と却下。ムートンの仔羊とカリフォルニア州旗の熊の組み合わせの案も出たが、結局背中合わせのシルエットが採用された(両者の横顔と署名の連なりだが、フィリップの頭がロバートより少し上だったので、ロバートの名がフィリップより少し上)

 1984年:アメリカにて1979と1980の2 ヴィンテージ、同時発売

 1988年:1985ヴィンテージから国際市場に

 フランス一流シャトーとアメリカ優良ワイナリーの対等協定はこれが初めてで、この事業は世界ワイン界の分岐点とも言われる。これによって新旧の高級品が同じ地位にあるか否かという論争が解決した

2010年秋の山梨旅行、ふらりと寄ったどこぞのワイナリーにて試飲。「一杯1500円?高っ!」と当時は思ったが、現在は呆れるほど高い…(このラベルを見る度、喉元を打つかの如き飲み応えのある果実味とアルコール度の強烈さ、そして甘い樽というスケールの大きな印象が鮮明に蘇る)

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