第十二瓶 テイスティング実践

 前二回分の細々こまごまとした内容を逐一覚えていられる程の記憶力が私には御座いません為、此処で私なりに要約致します。

果実味がボディを生み、アルコールが重みを加え、酸味が若々しさを与え、渋み が骨格を支え、苦味が複雑さを添え、ミネラル が透明感をもたら

 或いは人に喩えるなら、

アルコールが血で果実味が肉なら、酸味は精神(張りを与え若さを保持させる、酸が無いと重くだるい)、渋みは腱(体を引き締め強靭にする)、苦味は骨(肉体を支え、奥行きと複雑さを醸し出す)、そしてミネラルは魂(生粋の力、テロワール の表現)」

 と言ったところでしょうか。これをイメージとして捉えて置いて頂ければ、試飲時にワインの味わいにおける全体像が摑める筈です。ではそれらを如何に表現して行くか。次をご覧下さい。

「時間的・空間的な広がりは、生理学的には次のように解釈できる。舌の上で味細胞の存在する味蕾の集まりである乳頭は部位によって構造が異なり、味が受容されて伝わるのに要するまでに時間差がある。舌の先に散在する茸状乳頭の構造から甘味や塩味は舌の先で瞬時にわかるが、味蕾が乳頭の奥にある有郭乳頭では油や 旨味 の味は瞬時ではない。トロの脂のおいしさなどは、一呼吸おいてから、舌の奥と両側を中心に数秒後に急激な高まりとなって感じられる。一方、粘凋な溶液は拡散も緩やかで、味蕾の細胞との相互作用にも時間を要するかもしれない。時間的な広がりが余韻を生むと同時に、口腔内のすべての部位を動員する空間的な広がりとなる。」──伏木亨

 飽く迄これは一例ですが、JSAのソムリエコンクールではほぼこのイメージでコメントが為されているようです。尚WSETでは、

「甘→酸→(渋:赤)→Alc→ボディ→風味(強弱と特徴)→余韻」

 という明白な順序があり、その後に結論として品質や飲み頃などをコメントする事になります。何れにせよ、科学的には否定されている味覚地図(⇒続・ワインの味わい方 -葡萄酒との対話-)には、感覚的に一概には否定し切れないところがあり、液体が舌先から奥へと流れて行く以上は(この流れの角度や速さを研究してRIEDEL グラス は設計されています)、矢張り「甘味が先で酸味が次、その後に苦味が遣って来る」という事に例外は無いようです(もし苦味を一番先に感じるという方がいらっしゃいましたら、ご一報下さると嬉しいです)。

 続きまして品種の個性についてです。基本の主要品種を一覧にしました⇒https://songesdevignes.com/wp-content/uploads/2020/04/品種の個性.pdf

 勿論これらは一般的な要素で、必ずしも全てに当て嵌まるとは限らないという事をご承知置き下さい(産地毎の環境の違いは勿論、目覚ましい技術の進歩も伴い、同一品種間でも本当に色々な表現が為されています)。そしてこれらの用語と感覚を結び付ける為には、実際に味わいながら体に染み込ませるしかありません。地道な訓練が要求されますが、ワインはこういったマニュアル的なテイスティング用語が出来上がっている為、ソムリエ達はコメントを聞くだけで飲まなくてもイメージが出来るという訳です。(悪し様に言うと、これらは権威ある者達が作った出来合いの決まり文句であって、彼等の支配によって我々の表現の自由が奪われて行くのです。しかし在らゆる資格は同じで、そのルールに従うしか取得する術は無いのですから、資格を狙っている方は機械作業的にでも頭に詰め込みましょう〈当初私はそれが嫌で受験を渋っていたのですが、反抗期を過ぎた今では勿論テイスティング用語の意義を理解しております。因みに今のソムリエのテイスティング法の基礎が作られ始めたのは1970年代後半からで、まだ「伝統」と呼べる程の時の試練を経てはおらず、時代の流れと共にこれからも少しずつ変わって行くのでしょう。例えばJSA石田博副会長が最近上梓された『ワインの新スタンダード』には、スワリングは元来プロが必要に迫られて取る行為であり、グラスを回さない方が近年の、「強さ」から「繊細さ」へとスタイル変化するワインを心底理解して楽しむ上級者に見える、という内容があります。今後スワリングせずにワインを特定する人が現れるのでしょうか!?〉)

 また南か北かの判断がワイン特定のアプローチにおいて優先されます。その表も作成しました⇒https://songesdevignes.com/wp-content/uploads/2020/04/判断チャート.pdf(矢印が表記されている所は基本的に右に行くほど南の温暖地〈南半球は北に行くほど温暖です、念の為〉)

 ワイン用葡萄が栽培されている地域を追って行くと、北緯南緯共に30~50度の地域に集中していて、それを「ワインベルト(下画像)」と呼び、実は地球上のほぼ全ての住民はこの範囲内に暮らしている事が分かります。きっとそれもワインが普及した理由の一つでしょう(最大の理由は魅力的な飲み物だからでしょうがネ。因みにコーヒーベルトは南北緯0~25度、カカオベルトは0~20度とより赤道近くに狭まります)。

www.sapporobeer.jp
JSA呼称資格2次試験では、上の記載国から出題されています

 こちらも合わせてご覧下さい。

 北半球ではヨーロッパ南部の地中海沿岸は勿論ですが、アメリカ西部が、南半球ではオーストラリア南西部、南アメリカ西部、南アフリカが地中海性気候になります。

北半球の葡萄収穫期は一般的に10~11月。南半球1~2月。しかし最近は温暖化の影響で益々早くなっている

 中学生の頃、全く理解出来なかった忌々いまいましい雨温図です(# ゚Д゚)(北半球と南半球は季節が逆という事も ヴィンテージ を考える上では重要です〈南半球の方がリリース年が1年早くなります〉)。かつて地中海性気候が葡萄や柑橘類、オリーヴ向きと学んだのは、年間を通じ気候が一定して気温の変化が小さく、また夏の降水量が少ない為に乾燥し、菌類による病害も少なく安定して成熟出来るからでした。

 この様に、頭に世界地図を想い描きながらテイスティングをし、「白で色が濃いという事は南の方か、待てよ、熟成や 、スキンコンタクトもあるぞ」とか「赤で色が淡いという事は北の方でピノか、いやネッビオーロ、ガメイかも知れないな」とか「酸味が強いから葡萄の酸が維持される冷涼地だな」とか「果実味やアルコール感が高いから葡萄の糖度が高くなる温暖地だろう」とか考えながら、一つ一つ可能性を消去して絞り込み、さながら探偵の様に推理して犯人を当てるのです。(コチラの記事もご参考に⇒日本ソムリエ協会呼称資格認定二次試験対策

本日の箴言

 五感の全てが係わっているのだから、ワインを語る言葉が感覚器官を通じて受け取る印象や、官能性を脇へ押し退けてしまってはいけない。

ジャッキー・リゴー『アンリ・ジャイエのワイン造り』

休日の一本

Serena, Extra Brut, Chardonnay 2014 (Alc 12,5%, Traditional method, Disgorge〈澱引き〉2017年5月2日、 中央葡萄酒、山梨、日本)

輝きのあるやや淡いレモンイエロー。瓶詰め後36ヶ月の瓶内熟成による良く溶け込んだクリーミーな泡立ちは持続性も備える

控えめな香り立ちはドライフルーツ(林檎、洋梨)、グレープフルーツピール、スイカズラ、白スパイス、シュール・リー によるほんのりとしたトースト香が重厚さと複雑性を添える。時と共にオレンジのニュアンス

クリーミーで粒々とした泡の触感のある円やかな第一印象。果実感は低めだが、後に続く切れやかな酸と終盤に向かって強まるグレープフルーツの皮を思わせる苦味が爽やかさと濃くのバランスを取る。余韻は中程度

2018年10月30日よりワイン法が施行された日本。想像しにくい異国の季節感ではなく、目に浮かぶ、同じ四季を体験している日本ワインに魅了され、私達は今第七次ワインブームを迎えている。そして曾ては「大人しくインパクトに欠けワインに向かない」と言われて来た日本の甲州が世界に認められる先駆けとなった「キュヴェ三澤明野甲州2013」、そのグレイスワイン女性醸造家、三澤彩奈さんの静謐なる情熱の表現。日本ワイン向上の実感と共に、「日本ワインを応援したくなる、しなければならない、する価値がある」、そう思わせてくれる一本〈2018年10月〉

中央葡萄酒、グレイスワイン(amazon楽天yahoo

現行2015年新ラベル

“第十二瓶 テイスティング実践” への2件の返信

  1. I have read so many content about the blogger lovers however this piece of writing is truly a fastidious
    piece of writing, keep it up.

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