余韻に香りの盛り上がりを齎す。主にヴァニラ(ヴァニリン由来)、ココナッツミルク(ラクトン由来)、丁子クローヴ(オイゲノール由来)、キャラメル(マルトール由来)、渋み(タンニン由来)を付与する。醸造家が樽を使う時は、葡萄が良いなど、何かメッセージ性がある事が多い。樽の影響は デカンタージュ した方が強まる(ロースト香や苦味)。逆にステンレスタンクだとフルーツフレーヴァーがポンと出る。

<追記>

・新樽:樽の隙間に酒石が詰まっていない為、酸素透過率が高くなる。よって色素成分のアントシアニンが酸素と重合する為、使用比率が高いと若くても赤ワインの紫色が抜け、落ち着いた色調となる(↔ステンレスは紫が残りクリーンな香味で、こちらが世界の主流)。新樽で樽内 MLF を行うとコーヒー香のフェラン・メタンチオール発生

・大樽:容積に対し表面積が小さい → ゆっくりと色素や渋みが重合、巨大化し澱となる為、ワインの色が薄くなる。樽香が弱いため第1 アロマ の果実香をマスキングしない。伝統派やカジュアルなワインに

・小樽:容積に対し表面積が大きい → 早く角が取れ円くなり、細かい渋みが果実味に融合する。樽香が強いため、それに拮抗出来るだけの風味がベースワインにないとバランスの悪い味わいに為る。現代派や高級ワインに

・樽発酵(第2アロマ、還元):前半より後半に風味が出る(内面的性質)→ 酵母が樽由来の風味成分を代謝する為、元々の要素としてよりワインに溶け込んで風味に纏まりが出る。樽の特徴は明確だが樽熟成のみより嫌味が無く、また熟成能力が上がる。発酵温度が高くなり易いため酒質が重厚になる → 高級なフルボディ白ワインの標準的手法。古樽の風味の欠陥を避ける為、一般的に新樽を用いる

・樽熟成(第3アロマ、酸化):前半から風味が出る(外面的お化粧)。1980~2000年代にかけて樽の厚塗り「メーキャップワイン」が流行。分かり易く旨い、大衆好みのパーカー化(ナパ化)が世界を席巻。「新樽100%」: 香りはヴァニラ一色、「悪魔の技」との表現も。ご婦人の皆様、素肌の美しさを大切に。「新樽200%」(新樽での発酵後、MLF用に別の新樽に移し替える手法): でかくて不細工で脳足りんでけばけばしい・・・これ以上は申しますまい…

・樽酒:昭和初期まで酒は木桶で造られ貯蔵され、木樽に詰められて商品となったため酒に杉の香りが付いた(杉が含有するオルトヒン様物質ブレンツカテキンやヴァニリン、及びテルペン類や精油が溶出して付く。杉材以外の木材の使用を聞かないのは、それらの成分が清酒固有の香味と見事に調和するからであろう)。これを木香きがと言い、味と調和して美味に為るとされる(明治以後この香り〈ちょっと古く為った杉箪笥たんす匂い 。湿ったような、籠もったような印象〉は段々大衆に嫌われ、戦後から最近に至り通人が嗜好するように為った。それは木香の特徴というよりもワイン醸造における と同じ様に、熟成風味に依るところが大きいと思われる)。しかし他の香りにおいても無論言える事だが、付き過ぎると風味が諄くなる(一ヵ月も貯蔵すると杉の香り成分テルペンが過剰に溶出し、苦味やえぐ味も増加する為、樽貯蔵期間は数日から一週間。因みにワインにおける貯蔵期間より遙かに短いのは、杉はオークよりも木の目が粗い為に抽出量が多く、加えて通気性も良く酸化が早い為)。杉やひのき造りのますに注いで飲むと、木の香りを更に引き立てる(角に口を当てて飲まれている事が多いが、正式には平らな辺の部分に口を付けて啜るように飲む。升の縁に塩を置いて舐めながら酒を味わう遣り方もある)。因みに、麹室、麹蓋、麹箱、桶、樽など古くからの酒造道具は殆ど杉製。曾ては町々にあった酒樽製造業者も今は全国で数十軒と為り、国産杉材もまた廃れつつある今、清酒を飲む事は林業を守る事に一役買う。奈良県中南部の吉野杉は香りが良く良い甘みが出、樹脂含有量が少ないため木渋アクが少なく、よって着色も少なく酒質を害する恐れも無い(紀伊半島の温暖で多雨な気候ゆえ)。元々吉野は桶や樽の為に植えた専用の杉林で、通常の四倍以上の密植にするため日当たりが悪く成長に時間が掛かるが、横に枝が伸びず節の無い幹に為るため木目が緻密で平均しており水漏れもしにくいため最高品質とされ、また樹齢七十年から百三十年迄の物が良好とされる(樽製造の動画はコチラに⇒お役立ちワイン映像集)。紀伊三重南部大和奈良の吉野産に次いで、高野和歌山北東部土佐高知日向宮崎肥後熊本薩摩鹿児島西部の杉材が良しとされ、また能代秋田産も良く使用されたが、灘では殆ど吉野杉が用いられた。序でに、樽酒は魚介類の 旨味 の強度を高め、持続させる効果が高い。また口中の油分を洗いリフレッシュさせる(樽の 渋みタンニン 由来)

又、樽と桶の違いは蓋の有無や取り外しの可否(密封されているのが樽)。木桶仕込みの酒は樽酒とは違い、強い木香が付加されず、口当たりが円やかに為り、複雑味が加わるという。戦後それらが琺瑯ほうろうタンクに変わったのは、建物の再建の為に大量の木材が必要で、対し鉄は軍艦や兵器製造の為に溜め込んで余っていた為(これにより、初めて木香の無い酒が飲めるように為った)。参考までに、1932年の広告には「欠減がほとんどない、洗浄費がかからない、人件費3割減、永久耐久性」という琺瑯販売の謳い文句が載せられたという。一方木桶の寿命は150~180年と言われ(酒蔵で20~25年、その後醬油蔵や味噌蔵で100年程使用し、そしてボロボロに為っても土に埋めて漬け物桶として使える。最終的には薪として燃やされ灰に為り、肥料にも為る)、この非常な長期に亘る再利用が、皮肉な事に桶屋が廃れた理由でもある